今回は、動き始めた感がある1️⃣ 転職市場の動向、近時お客様より質問を頂戴するようになった2️⃣ 副業について解説します。
1️⃣ マイナビが発表した転職動向調査2023年版(2022年実績)によると、2022年の正職員の転職率は7.6%(昨年比0.6%増)と増え、2016年以降で最も高い水準となっています。次にその転職の理由(単一回答)は「給与が低かった」が2021年から上昇し、初めてのトップとなっており(27.3%)、続いて「仕事内容に不満があった」「職場の人間関係が悪かった」「会社の将来性、安定性に不安があった」「休日や残業時間などの待遇に不満があった」の順となっています。また、男女とも若年層ほど、「休日や残業時間などの待遇に不満があった」「成長できる環境が整っていなかった」が高い傾向となっています。逆に入社を決めた理由(単一回答)を見ると、「給与が良い」が前年より5% 以上増加し、トップとなっており(15.4%)、続いて「休日や残業時間が適正範囲内で生活にゆとりがある」(9.8%)、が続いています。
あわせて、厚生労働省が令和5年3月31日に発表した令和3年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)によると、民営職業紹介事業所の新規求職申込件数は1974万件(対前年比13.8%増)、常用求人数は約1030万件(対前年比19.1%)となっており、コロナ前の水準にほぼ戻った、という結果が出ており、調査対象の年度に1年の違いがありますが、転職市場が一気に戻って、かつ2022年は非常に高まってきていることが結果として出ています。
加えて近時の賃上げ傾向をあわせて考えると、「給与が低かった」という転職理由がトップになっていることは、今年度の転職市場の動向も同様の傾向が続くことを予想することができます。例えば、他の業種に比べて昇給額があまり良くなかった、等の理由です。直近の印象では、特に医療事務については一般業の事務職との人材獲得競争が鮮明化しているととらえており、医療事務の確保はより対一般業を想定する必要があると感じています。地域や同業他社の賃金に関する動向や傾向、水準を確認して、それに対応するのは勿論ですが、世間一般の流れも把握して対策を練っていくことが必要になりそうです。
2️⃣ 近時、医療機関や介護福祉施設にて、「職員から副業が出来ないのか」という質問があった、または「正職員として勤務している他の会社の職員が土日のみ副業(例えば夜勤など)できないか」という応募があった、等のご相談を受けることが増えてきました。恐らくこれまでの就業規則の多くは、原則として副・兼業を禁止又は一律許可制としていると思います。もっとも、近時の裁判例を見ても、副業に関し、前提として労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的に労働者の自由とされており、副業を一律不許可とする運用は今後厳しくなっていくこと(裁判になった際に違法とされる可能性が高まること)が想定されます。そのため、今後の副業に関する方向性としては、現在許可制を就業規則にて採用している会社でも、その副業許可を求める申請内容が自社の本業に支障が生じる可能性の高い競業や利益相反に該当していないか、もしくは自社業務に支障が出るような業務内容・実施時間になっていないか等の個別の申請によって判断していく流れになろうかと思います。
副業の申請を行う場合にどういったことを申請内容とすべきか、については
● 副業先での業務内容
● 副業先の勤務期間
● 副業先の雇用形態
● 副業先での勤務時間、所定労働日、時間外労働の有無
といった事項を記載することが想定されます。上記に加えて、機密保持といった点から誓約書を提出することも必要でしょう。
なお、もっとも副業において問題となるのが労働時間の管理です。副業・兼業の前提として労働基準法第38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しており、「事業場を異にする場合」とは、同一使用者のみならず、会社を異にする場合も含まれると解釈されています。(労働基準局長通達昭和23年5月14日付基発第769号)ここで問題となるのは、副業先での労働時間を通算した場合の時間外労働時間の管理とその時間外割増の支払い方法です。ここで厚生労働省は労使双方の負担を軽減する「管理モデル」を掲載しており、副業先の労働時間全体をすべて法定外労働時間と扱うことを便宜的にモデルとしています。
● 労働者が使用者A(先契約)と使用者B(後契約)で、雇用契約による副業・兼業を行う場合、使用者Aの「法定外労働時間」(1週40時間、1日8時間を超える労働時間)と使用者Bの「労働時間」について、それぞれ上限を設定します。
● 管理モデルの導入後、使用者Bは、使用者Aでの実際の労働時間にかかわらず、自社での「労働時間全体」を「法定外労働時間」として、割増賃金を支払います。
この考え方は、特に自社が副業を受ける側であるときには参考になります。原則的な考え方であれば、本業側の労働時間を細かく把握し、副業側で時間外労働に該当する 時間を割増することが必要になりますが、簡易的に副業側が副業時の労働時間すべてを時間外労働として扱うことで、計算および労務管理上の負荷を減らそうとしています。こちらが主としての立場になると、副業を認めるかどうかは「多様な働き方を認めるかどうか」という会社の考え方の一つの表明になります。副業を一切認めないことは今後否定されていく方向性になると考えられます。
石井 洋(いしい ひろし)
M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。