度々これまで触れてきましたが、今回は会社経営を取り巻く人件費や法定福利費の今後の方向性を予測も交えて解説します。
❶ 雇用保険料率の引上げ(2023年4月予定)
令和4年10月から引き上げられたばかりの雇用保険料率ですが、厚生労働省が2023年4月から雇用保険料率の引上げで最終調整に入っています。(料率にして0.2%の引上げ)引上げは、以下の料率になろうかと思いますが、労働者負担分と会社負担分の折半での負担引き上げです。
❷ 障害者雇用の法定雇用率の引上げ(2024年4月以降段階的引き上げ)
現在、従業員を43.5人以上雇用している事業主が障害者を1人以上雇用しなければならないとされていますが、(法定雇用率2.3%)厚生労働省は来年度から段階的に引き上げることを決定しています。
❸ 社会保険適用拡大
令和4年10月1日から従業員数が100名以上の会社に短時間労働者の社会保険適用拡大が実施されていますが、2024年10月からは従業員数51人以上の会社が短時間労働者の社会保険適用拡大の対象となることが決定しています。
❹ 2023年賃上げの予測値
岸田総理大臣が年頭の記者会見にて物価上昇率を超える賃上げの実現を目指す方向を示し、昨年からの物価高、更には増税の議論もあって注目される今年の賃上げ。民間のエコノミストの予測を眺めてみると、2023年の春闘賃上げ率の予測は、2.85%(日本経済研究センター)、2.59%(みずほリサーチ&テクノロジーズ)、2.7%(第一生命経済研究所)といった過去5年の傾向からすると非常に高い数字が並んでいます。医療機関で上記のような賃上げ率がそのまま実現できるとは考えていませんが、看護師・介護職をはじめとした専門人材不足の加速、最低賃金の引上げによって、近隣の求人相場を眺めると医療機関の求人条件がかなりの割合で引きあがっているのは容易に見てとれます。
なお、年頭に大きな話題となったユニクロ・ジーユー事業を営むファーストリテイリンググループの報酬改定の内容は、ニュースリリースから見ると、(1)職種・階層別に求められる能力や要件を明確に定義して、各社員に付与するグレードの水準を数%~約40%アップ、(2)機動性が高い組織運営の実態に沿うように、従来の役職手当を止め、報酬は基本給+各期の業績成果によって決まる賞与によって構成する、(3)報酬を決める基準としてグローバル共通のグレード基準を成果、能力、成長意欲、成長性等から明確にする、等を内容としています。つまり、賃上げは行うものの、しっかりと求められる能力や成果を明確化し、固定の役職手当等ではない、成果に応じて大きく変動する要素がある賞与をもって処遇改善を行う、という方向性が示されたものといえます。勿論、グレードの給与水準が改善されたことは間違いなく、全体としての支給水準は引上げとなり(求められる能力や成果が十分でない方は下がる可能性があると見ています)、採用へのインパクトも大きいものと考えます。
医療機関を取り巻く環境は非常に厳しくなっています。❶~❸、最低賃金の引上げの方向性、協会けんぽの「令和5年度保険料率について」の資料を見ると、法定福利費を含めた今後の人件費の上昇傾向は避けられません。限られた資金の中で、民間企業に負けないよう知恵を絞り、いかに優秀な人材を獲得・育成し、優れた人材に思い切った投資をして人材を引き留めていくか。2023年は、医療機関の人事担当者の皆様の腕の見せ所で、かつ正念場となる1年だと思います。
石井 洋(いしい ひろし)
M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。