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最新厚生労働省からの発表について

1️⃣ 令和4年9月発表の「労働経済の分析」(労働経済白書)
2️⃣ 「 令和3年度の個別労働紛争解決制度の施工状況」

 今回は厚生労働省から発表された2つの発表について解説いたします。
 まず、1️⃣ 令和4年9月6日に労働経済の分析(いわゆる労働経済白書)が公表されましたので、その内容を抜粋します。

【令和4年版 労働経済の分析のポイント①】

(2021年の労働経済の推移と特徴)

● 2021年の労働市場においては、緊急事態宣言が発出された2021年1月~9月の間、雇用情勢は一進一退の動きになったが、10月以降は回復に向けた動きがみられた。

● 感染拡大前から続く人手不足の状況が再びみられる中、転職者数は前年に続き大幅に減少するなど、労働市場の動きには停滞がみられる。転職者数:前年差31万人減(2019年353万人、2020年321万人→2021年290万人)
⇒昨年、多くの医療機関・社会福祉事業の顧問先において求人の応募が停滞している旨のお話を伺うことが増えましたが、実際に2021年の転職数は大幅に減少している事が明らかになっています。この傾向は2022年も続いている可能性はあるでしょう。

● 労働時間は感染症の影響による前年の大幅減から持ち直して前年差プラスとなり、実質賃金は3年ぶりに前年比プラスとなった。(前年比+0.6%増加)
※月間総実労働時間:前年差0.9時間増(2019年139時間、2020年135.1時間→2021年136時間)
⇒先月号にてお伝えした最低賃金の引上げ及び近時の物価上昇の影響を受け、求人においての初任給等は今後更なる引上げの要請が高まる事が予想されます。

● 今後、生産年齢人口や新規学卒者の減少による労働力供給の制約が見込まれる中、介護・福祉分野やIT分野など労働力需要の高まりが見込まれる分野があり、外部労働市場を通じた労働移動による労働力需給の調整が今後重要となる。
⇒2021年度の介護サービスに関する職業の有効求人倍率は3.6倍、社会福祉の専門的職業は2.88倍と他の全職種の有効求人倍率(1.13倍)を大きく上回って推移し、年々その差が拡大している状況です。医療・介護福祉分野の労働力需要の高まりが見込まれる一方で、「外部労働市場を通じた労働移動」が重要という記載になっていますが、求人倍率を見る限りにおいては、その外部労働市場を通じた労働移動は極めて厳しい実態が明らかです。

 つまり、上記を通じて見えることは医療・福祉(特に福祉)業においては、有効求人倍率が極めて高い状況で推移し、更に一人あたりにかかる実質賃金はプラスになる可能性が高く、転職市場においての人の動きは停滞感がある、という非常に厳しい状況です。

【令和4年版 労働経済の分析のポイント②】

主体的なキャリア形成に向けた課題

● キャリアコンサルティングを受けた者は、キャリア設計において主体性が高い者が多く、幅広い分野でキャリアを形成している傾向がある。

● 労働者が自己啓発について抱えている課題は、時間が取れない、費用がかかるといったものが多い。企業が費用面での支援や就業時間の配慮等を行っている場合、自己啓発を行っている社員の割合が高い傾向がある。

● 介護・福祉分野の訓練については、応募倍率や定員充足率が低い(人が集まらない)ことが課題であるが、介護・福祉職と類似度が低い前職の経験者でも、訓練を受講すればある程度介護・福祉職に就職できており、幅広い職種の経験者が対象となり得る可能性がある。
⇒この分析内容は、在籍している職員の方にも該当しうる内容かと思います。特に管理職層・管理職候補の方に自発的な自己啓発を期待する企業は多いかと思いますが、会社側である程度のキャリアコンサルティング、就業時間においての研修等の支援を行っている場合、自己啓発を行う社員の割合が高くなる傾向が出ている、という事です。

 次に、2️⃣ 厚生労働省から令和4年7月1日に発表された「令和3年度の個別労働紛争解決制度の施工状況」について解説します。

※ 個別労働紛争解決制度は、総合労働相談(各都道府県労働局、労働基準監督署内等の総合労働相談コーナーに設置)、   都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせんの3つがある。

 この民事上の個別労働紛争相談における相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全項目でパワーハラスメントとの関連性が推測される「いじめ・嫌がらせ」の件数が最多となっています。(全体の24.4%)
 また、総合労働相談の件数は、昨年比3.7%減少で減っているように見えますが、令和2年度は平成24年以降で最多の年(129万件)となっており、令和3年度も令和2年度に次いで相談件数としては高い数字で推移し、労働問題に関する相談が高止まりしている実態が見えてきます。
 以前パワーハラスメント対策を明確化した改正法が施行された旨はご案内しましたが、中小企業の事業主にも令和4年4月1日からパワーハラスメント防止措置が義務化されていますので、中小企業でも対策を進める必要があります。
 近時、パワーハラスメントを中心とした、ハラスメント研修のご依頼を頂く事が非常に増えましたが、ハラスメントは会社で絶対に防止する必要がある、きわめて優先順位が高いものになっています。こういったハラスメントの課題は、単にそのハラスメントを行っているとされる個人を指導し、解決する問題ではない事が多く、役員・管理職をはじめとした役職者の意識、これまでの管理職研修の在り方、隠れている会社のコミュニケーションの問題、人事部門のハラスメントに対する対応やこれまでの取り組み等、様々な問題が複合的に絡み合っています。ハラスメントを根絶するために、まずは最低限必要な知識の習得等を進めるのは最低限ですが、働きやすい職場を実現するために何を取り組んでいくかを会社として考えていく事が必要です。

労務管理_石井氏

石井 洋(いしい ひろし)

M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。