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最低賃金引き上げ・雇用保険料率改定について

 今回は、令和4年10月から適用される❶ 最低賃金の引き上げ、❷ 雇用保険料率の改定について解説します。

❶ 最低賃金の引き上げ

 令和4年8月2日に「令和4年度の地域別最低賃金改定の目安について」という答申が発表されました。最終的には上記答申をもとに、各都道府県労働局長が地域別最低賃金を決定することになりますが、今回の答申が示した引き上げ額の目安は、全国全ての都道府県において「31円」という引き上げ額の目安となっています。昨年度も「28円」という水準引き上げが過去最高額とお伝えしましたが、今年は更にそれを超える金額で引き上げになる事が予想されています。
 今回の最低賃金引き上げは、一過性のものでないことが要注意となっています。今回の最低賃金引き上げに際しては、関連して公開されている資料を確認すると、物価上昇の影響を受けての答申であることが見て取れますが、2022年6月7日に内閣官房から発表されている「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・フォローアップ」を見ると、「人への投資のためにも最低賃金の引き上げは重要な政策決定事項である」旨を明記しており、この傾向は継続する事が予想されます。
 近時の医療・福祉業界において「採用が困難になっている」のは、周知の事実ですが、今回の最低賃金引き上げに伴い、10月以降に予想される変化として、

    •  医療事務、受付、送迎等のパート求人の時給設定が引きあがる可能性が高い。
    •  上記に伴い、医療事務、受付の正社員求人の月給初任給を引き上げる求人が少なからず発生する。
    •  仮に初任給が高い従業員がその後入社した場合に、既存従業員から新しい求人を見て自分との賃金格差がない事から、自分の賃金引き上げを要請される。

 これほど最低賃金が上昇し、更に継続して上昇することが予想されるとなると、最低賃金ぎりぎりに時給及び月給を設定し、最低賃金の変更に合わせて賃金設定を変更する、という対応は限界が来ているように思います。

 自院の業務内容に対して、給与・賞与を含めた年収を設定、給与と賞与でどう分配して支払いするかを考え、これだけの賃金を支払うから、この業務を行って欲しい、ということを明確化する。そして、その求める職員像を求人に反映し、その求める職員像(年齢層・経験・必要なスキル・労働時間)を募集するのに必要な処遇や福利厚生は何なのか、自院の強み・特徴は何か、求人の見せ方は十分なのか等、自院の人材戦略をしっかりと考える必要が出てきているのは明らかです。最低賃金を下回らないようにするのは前提としたうえで、来年以降も予測した自社の賃金を分析する事も必要となるでしょう。

❷ 雇用保険料率の改定

 次に令和4年10月1日から改定施行される雇用保険料率の改定について解説します。雇用保険料率については、令和4年度において2段階に分けて引き上げが行われます。

 まず、令和4年4月1日から会社負担分のみの引き上げが以下のように実施されています。

 そして、更に令和4年10月1日からは労働者負担分及び会社負担分の更なる引き上げが行われます。

 今年の10月からは、労働者負担分が2 /1000引き上げとなっており、更に会社負担分も同じく2 /1000増えているような形になっています。
 特に雇用保険料率の会社負担分は、年に1度の労働保険料の申告という段階になって初めて会社側としては費用が確定することになり、引き上げの影響を痛感するのは来年の7月以降という事になります。
 今回の雇用保険料率の大幅な引き上げの背景としては、長引く新型コロナウイルスの影響を受けての雇用調整助成金(解雇をせずに従業員の休業を行い、休業手当を支払う会社への助成)の支給が大幅に増加・継続している事、失業手当の支給額も増えている事にあり、雇用保険料の積み立て財源が枯渇してしまった事にあります。
 つまり、この状況が継続する場合は、雇用保険料率が今後も引きあがる可能性が高いという事です。協会けんぽ・医師国保等の健康保険料や厚生年金保険料が地道に引き上げられ、会社の法定福利費の負担は知らぬうちに徐々に増えているのが実態ですが、今後は労災保険料や雇用保険料率の引き上げによる影響も加わりそうです。令和4年10月以降の雇用保険料率の今回の引き上げは会社側のみならず、労働者負担も引き上げになっていますので、労使ともに負担が増える形となります。会社の従業員の方々には事前に周知頂ければと思います。

労務管理_石井氏

石井 洋(いしい ひろし)

M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。