厚生労働省は2026年5月、「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」に関する普及啓発の取り組みを改めて公表しました。人生会議とは、自分で意思表示ができなくなった時のために、望む医療やケアについて前もって考え、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合い共有する取り組みです。
その必要性を示すデータは明確です。命の危険が差し迫った状態になると、約75%の人が治療やケアについて自分で決めたり伝えたりできなくなります。一方で、事前に希望を書面にして共有することに約7割の人が賛成しているにもかかわらず、実際に家族と「詳しく話し合ったことがある」人はわずか1.5%にとどまっています。この対話不足は、本人の後悔だけでなく、いざという時に決断を迫られる家族に「本当にこれで良かったのか」という重い精神的負担を残すことになります。
人生会議が「終活」と異なる点は、一人で完結するものではないという点です。財産やお墓の準備を粛々と進める終活に対し、人生会議は家族・友人・医療ケアチームとの対話を繰り返すプロセスです。「大切にしたいこと」「絶対に避けたいこと」を言葉にして信頼できる人と共有し、状況の変化に応じて何度でも見直していくものです。最期の場所(自宅か病院かなど)はあくまで手段であり、「どう自分らしく生き切るか」という目的を起点に考えることが重要とされています。
先進事例として注目されるのが香川県高松市の取り組みです。平成26年から10年以上にわたり、在宅医療・介護連携推進会議を中心に多職種が連携し、在宅医療コーディネーターを383名以上養成。地域の公民館での懇談会や住民リーダーによるカードゲームを活用した対話など、地域の実情に合わせたボトムアップの活動が根付いています。「住み慣れた高松」で検索すると最初に表示されるポータルサイトの整備など、アクセスの入口づくりも徹底されています。
介護事業所は利用者やその家族と日常的に関わる立場にあり、人生会議を自然な形で促せる最も身近な存在です。「最後まで自分らしく生き切るための準備」を支える場として、自施設がどのような役割を果たせるかを改めて考えてみる必要があります。
原田 和将
一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。
