2026年5月、韓国・ソウル福祉財団が6つの介護施設を対象とした「2026 Care Service Digital Transformation Support」を発表しました。40施設の応募の中から選ばれた6施設に対し、各施設約70万円の資金と専門的な技術コンサルティングを提供し、AI・ロボット技術の現場導入を支援するパイロット事業です。急速な高齢化と深刻な人手不足に直面する韓国において、介護現場のDXを「執行可能なモデル」として確立しようという取り組みです。
注目すべきはその具体性です。職員の筋骨格系への負担を軽減する電動体位変換ベッド、転倒前の行動パターンを検知する非接触レーダーセンサー、移乗介助を支援する電動リフトとウェアラブル外骨格ロボット、必要なタイミングだけ職員に知らせる排泄センサー、いずれも「職員の体を守る」「無駄な巡回を減らす」という明確な目的のもとに機器が選定されています。テクノロジーの導入を目的化するのではなく、「介護負担が高く利用者リスクも高い業務」にターゲットを絞った設計思想が際立っています。
韓国が直面している課題は日本と酷似しています。高齢化率の上昇、介護人材の不足と高い離職率、身体的に過酷な労働環境、これらは日本の介護現場が長年抱えてきた問題と重なります。むしろ韓国は日本よりも短期間で高齢化が加速しており、その危機感が国や自治体レベルでの迅速な制度的対応につながっています。
日本でも見守りセンサーや移乗支援機器の導入補助は進んでいますが、現場への浸透はまだ途上です。ソウルのパイロット事業が示すのは、機器の導入と同時に技術コンサルティングによる伴走支援を組み合わせることの重要性です。現場が使いこなせなければ機器は宝の持ち腐れになるという教訓は、日本の導入現場でも繰り返し確認されてきた事実です。
隣国の取り組みを「海外の事例」として遠くから眺めるのではなく、自施設の課題解決に向けたヒントとして引き寄せて考える視点が、これからの施設運営には求められています。
原田 和将
一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。
