あなたが現在見ているのは 「もう診ません」はどこまで可能か――応招義務と診療継続の判断(第4回/全6回)

「もう診ません」はどこまで可能か――応招義務と診療継続の判断(第4回/全6回)

→目次に戻る

こんにちは。M&Cパートナーコンサルティングのパートナーコンサルタント、長幸美です。

カスハラ対策について院長先生方とお話しすると、よく聞かれるのが、

「応招義務があるので、どんな患者さんでも診なければならないのでしょうか」

という質問です。

反対に、

「暴言を吐いた患者さんには、もう来ないように伝えてよいですか」

というご相談もあります。

結論から言うと、どちらも一律には判断できません。

応招義務は「何があっても診療する義務」ではありません

医師法上の応招義務は、医師個人が国に対して負う公法上の義務です。一方、医療機関についても、正当な理由なく診療を拒まないことが求められます。

診療しないことが正当化されるかを判断する際に、最も重要な要素は、患者さんに緊急対応が必要かどうかです。

そのほか、診療時間内か、医療機関の専門性や設備で対応できるか、代わりに診療できる医療機関があるか、患者さんとの信頼関係なども考慮されます。

ですから、

「暴言を吐いたから、今日は診察せず帰ってもらう」

と機械的に判断することは危険です。

まずは、医学的な緊急性を確認しなければなりません。

「今日の診療」と「今後の診療」を分けて考える

例えば、受付で暴言を繰り返している患者さんが、胸の痛みや強い呼吸苦を訴えているとします。

この場合は、迷惑行為への対応とは別に、緊急性を評価する必要があります。

必要な応急処置を行い、自院で対応できなければ、救急対応が可能な医療機関につなぐことが優先されます。

一方、病状が安定しており、診療と関係のない要求や暴言を繰り返し、信頼関係が大きく損なわれている場合には、今後の診療方法を見直す余地があります。

そのため、次の二つを分けて検討してください。

今日、必要な医療をどのように提供するか。
今後も同じ形で診療を継続できるか。

当日の感情で「二度と来ないでください」と伝えるのではなく、医学的状況を確認し、事実を記録したうえで組織的に判断します。

いきなり診療終了ではなく、段階的に対応する

迷惑行為が続く場合は、まず行為を特定して警告します。

例えば、

「職員への大声や侮辱的な発言はお控えください」
「同様の行為が続く場合は、今後の診療方法を検討します」

と書面で伝えます。

その後も行為が続く場合は、

  • 予約制に限定する
  • 連絡窓口を一つにする
  • 電話対応の時間帯を限定する
  • 家族の代表者を決めてもらう
  • 複数の職員で対応する
  • 必要に応じて他院を紹介する

など、診療と安全を両立する条件を検討します。

それでも信頼関係を維持できず、診療継続が困難な場合には、病状の安定性や代替医療機関の有無を確認しながら、今後の診療を終了することを検討します。

ただし、実際に診療終了を通知する場合は、個別事情によって判断が異なります。顧問弁護士や医師会などへの相談も必要です。

応招義務を職員に我慢させる理由にしない

応招義務があるからといって、受付職員や看護師に暴言を受け続けさせてよいわけではありません。

国の通知でも、診療の求めへの対応を考える際には、医師の勤務環境や患者との信頼関係も考慮要素とされています。

「患者さんを診ること」と「患者さんのあらゆる言動を受け入れること」は別です。

必要な医療は提供する。
一方で、暴言や暴力には線を引く。

この二つを両立させることが、医療機関に求められる対応です。

次回は、長時間の電話、録音・録画、口コミサイトやSNS投稿への備えについてお話しします。

→目次に戻る