こんにちは。M&Cパートナーコンサルティング代表の村上佳子です。
今回は、クリニック向けに、BCPには実際に何を書けばよいのかをお話しします。
クリニックの院長先生や事務長さんから、よく聞かれるのがこの質問です。
「BCPが必要なのは分かったけれど、具体的に何を書けばよいのでしょうか」
たしかに、病院向けのBCPをそのまま見ると、かなり大がかりです。
災害対策本部。
病棟運営。
手術室。
入院患者の避難。
非常電源。
給水。
医薬品備蓄。
多数傷病者の受入れ。
こうした項目を見ると、クリニックでは現実味がないと感じるかもしれません。
でも、クリニックのBCPは、病院と同じものを作る必要はありません。
クリニックには、クリニックのBCPがあります。
私は、クリニックのBCPでは、まず次の5つを決めることが大切だと思っています。
1つ目は、診療を続けるか、止めるかの判断基準です。
非常時に一番困るのは、「開けるのか、閉めるのか」が決まらないことです。
例えば、台風、大雪、地震、停電、断水、電子カルテ障害、職員の大量欠勤などが起きたとき、誰が診療可否を判断するのか。
院長先生なのか。
院長先生が不在の場合は副院長なのか。
事務長なのか。
看護師長なのか。
ここを決めておく必要があります。
また、完全に休診するのか、午前だけ診療するのか、予約患者のみ対応するのか、慢性疾患の処方だけ対応するのか、急患のみ対応するのか。
こうした段階的な対応も決めておくと、現場が迷いません。
2つ目は、職員の安否確認と出勤ルールです。
災害時には、職員自身や家族の安全が最優先です。
そのうえで、診療を継続するために、誰が出勤可能なのかを把握する必要があります。
連絡方法は電話なのか、LINEなのか、ビジネスチャットなのか。
連絡が取れない場合はどうするのか。
小さなお子さんがいる職員、公共交通機関で通勤している職員、遠方から通勤している職員への配慮はどうするのか。
こうしたことを決めておくことが大切です。
BCPというと患者対応ばかり考えがちですが、職員が安全に働けなければ診療は続けられません。
3つ目は、電子カルテ・レセコンが止まった場合の対応です。
これは、すべてのクリニックで考えておくべき重要項目です。
電子カルテが使えない。
予約システムが見られない。
オンライン資格確認ができない。
会計システムが動かない。
処方箋が発行できない。
こうしたことは、災害時だけでなく、システム障害でも起こります。
そのときに、紙で診療記録を残すのか。
保険証や資格確認はどう扱うのか。
処方箋は手書きで出せるのか。
会計は概算にするのか、後日精算にするのか。
復旧後に誰が入力するのか。
ここを決めておく必要があります。
特に、紙の様式は事前に準備しておくことをおすすめします。
非常時用の診療録メモ、処方メモ、会計保留リスト、予約変更リストなどを、紙で印刷してファイルに入れておくだけでも違います。
4つ目は、患者さんへの情報発信です。
災害時や台風時には、患者さんから電話が集中します。
「今日は開いていますか」
「予約はどうなりますか」
「薬だけもらえますか」
「検査はできますか」
「訪問診療は来てもらえますか」
こうした問い合わせに個別対応していると、受付がパンクしてしまいます。
そのため、ホームページ、LINE、SNS、院内掲示、電話自動応答など、どの手段で情報を出すのかを決めておくことが重要です。
例えば、
「本日は午前中のみ診療します」
「予約患者のみ対応します」
「慢性疾患の定期処方については電話でご相談ください」
「発熱外来は休止します」
「検査予約は後日変更の連絡をします」
こうした定型文を事前に作っておくと、非常時にすぐ使えます。
5つ目は、近隣医療機関や薬局との連携です。
クリニックだけで完結できない場面もあります。
自院が休診せざるを得ない場合、患者さんをどこに案内するのか。
院外処方の場合、薬局が開いているのか。
在宅患者の薬はどう届けるのか。
紹介先の病院は受入れ可能なのか。
非常時には、普段の連携先との関係が非常に大切になります。
BCPには、連携先の電話番号や連絡方法、災害時に相談する相手をまとめておくとよいです。
ここまで聞くと、
「やっぱり大変だな」
と思われるかもしれません。
でも、最初から完璧に作る必要はありません。
まずは、次のような簡単な表から始めてもよいのです。
想定される事態。
起こる問題。
優先する業務。
対応する人。
連絡方法。
必要な書類や備品。
復旧後にやること。
この表を、台風、停電、電子カルテ停止、職員欠勤、感染症流行などの場面ごとに作っていきます。
これだけでも、クリニックのBCPとしてかなり実用的になります。
大事なのは、実際に職員が見て動けることです。
分厚いマニュアルを作って、棚に置いて終わりでは意味がありません。
受付スタッフが見ても分かる。
看護師が見ても分かる。
院長先生が不在でも最低限の判断ができる。
新人職員でも、どこを見ればよいか分かる。
こういうBCPが、クリニックには向いています。
第3回のまとめです。
クリニックのBCPは、大病院のような重厚な計画でなくて構いません。
診療可否の判断、職員の安否確認、電子カルテ停止時の対応、患者への情報発信、連携先との連絡。
まずはこの5つを決めることから始めてください。
次回は、在宅医療を行う医療機関のBCPについて、在宅患者さんをどう守るかという視点でお話しします。

