こんにちは。M&Cパートナーコンサルティング代表の村上佳子です。
今回は、在宅医療BCPにおける「業務継続戦略」についてお話しします。
少し難しく聞こえるかもしれませんが、要するに、災害時にどのレベルまで自院で対応し、どの段階から外部支援を求め、どの段階では他の医療機関に引き継ぐのかを決めておく、ということです。
BCPは、「どんな状況でも自院だけで頑張る計画」ではありません。
ここは非常に大切です。
在宅医療に取り組む医療機関は、患者さんへの責任感が強いです。
院長先生もスタッフも、「何とか訪問しなければ」「患者さんを見捨てるわけにはいかない」と考えます。
その姿勢は本当に大切です。
ただし、災害時には、自院の力だけではどうにもならない状況があります。
医師が診療できない。
看護師が出勤できない。
診療所が浸水して使えない。
車両が使えない。
道路が寸断されている。
電子カルテが使えない。
電話がつながらない。
このような状況で、無理に通常業務を続けようとすると、かえって患者さんやスタッフの安全を損なう可能性があります。
だからこそ、被害レベルに応じた判断基準が必要になります。
厚生労働省の手引きでは、ステージ1からステージ4までの考え方が示されています。
ステージ1は、災害対応マニュアルで対応できる段階です。
たとえば、小規模なトラブルや一時的な混乱はあるものの、通常業務に大きな影響は出ていない状態です。
この段階では、初動対応を行いながら、BCPを発動する必要があるかどうかを見極めます。
ステージ2は、BCPを発動するけれども、基本的には自院のリソースで何とか対応する段階です。
たとえば、スタッフの一部が出勤できない。
移動手段に一部支障がある。
通常通りの訪問件数は難しい。
このような場合には、優先業務を続けながら、定期訪問を縮小したり、外来を縮小したり、一部業務を一時中止したりします。
在宅医療では、往診、臨時訪問、緊急訪問を優先し、状態が落ち着いている患者さんについては、訪問頻度を一時的に落とすことが考えられます。
オンライン診療や電話確認を併用することもあります。
道路状況によっては、車だけでなく、自転車や徒歩での移動を検討する場合もあります。
もちろん、安全確保が大前提です。
ステージ3は、自院だけでは対応が難しく、他の医療機関や関係機関からの支援を受けながら業務を継続する段階です。
ここでは、平時からの連携がものを言います。
近隣の診療所に一部患者さんの診療をお願いできるのか。
病院に相談できるのか。
訪問看護ステーションと役割分担できるのか。
薬局と薬剤供給について相談できるのか。
行政や保健所と情報共有できるのか。
これらは、災害が起きてから急に決めるのは難しいです。
だからこそ、平時から「お互いさま」の支援関係を作っておく必要があります。
そしてステージ4は、自院の外来診療や訪問診療を中長期的に中止せざるを得ない段階です。
これは、できれば避けたい状況です。
しかし、診療所が大きな被害を受けたり、医師や主要スタッフが診療できなかったりする場合には、現実的に起こり得ます。
このときに大切なのは、「中止する」という判断そのものではありません。
中止せざるを得ない場合に、患者さんへの医療提供をどう継続するかです。
誰に引き継ぐのか。
どの情報を渡すのか。
患者さんやご家族にどう説明するのか。
契約や個人情報の取り扱いはどうするのか。
診療情報提供書や患者リストはどう準備するのか。
ここまで考えておくことが、BCPの重要な役割です。
私は、事務長さんには特に、このステージ別の考え方を押さえていただきたいと思います。
災害時の判断は、医療判断だけではありません。
人員配置、給与、資金繰り、請求、記録、契約、個人情報、関係機関との連絡など、経営管理の判断が非常に多く発生します。
たとえば、訪問件数が大きく減った場合、収入はどうなるのか。
スタッフの給与をどう守るのか。
避難所支援や在宅避難者の健康モニタリングに参加した場合、その記録や対価はどう考えるのか。
こうしたことも、在宅医療BCPでは避けて通れません。
BCPは、現場の医療提供だけでなく、医療機関として事業を継続するための計画でもあります。
被害レベルごとに、何を続けるか。
何を縮小するか。
誰に支援を求めるか。
どこまで来たら引き継ぐか。
これをシンプルに整理しておくことが大切です。
立派な冊子でなくても構いません。
むしろ、災害時には、複雑な文書は使えません。
ステージ別に、判断基準と対応方針を一枚で見られるようにしておく。
これが実務上は非常に役立ちます。
次回は、最終回として、BCPを作って終わりにしないための訓練・見直し、そして地域BCPへの広げ方についてお話しします。

