こんにちは。M&Cパートナーコンサルティング代表の村上佳子です。
6回にわたって、在宅医療に取り組む医療機関のBCP作成についてお話ししてきました。
最終回の今回は、BCPを作った後にどう運用するか、そして地域との連携にどう広げていくかをお話しします。
BCPは、作って終わりではありません。
ここは何度でも強調したいところです。
どれだけ立派なBCPを作っても、スタッフが内容を知らなければ使えません。
一度も訓練していなければ、実際の災害時には動けません。
連絡網が古いままであれば、安否確認すらできないかもしれません。
電子カルテを変更したのに、BCPの記録手順が昔のままであれば、いざというときに混乱します。
つまり、BCPは「完成品」ではなく、「育てていくもの」です。
厚生労働省の手引きでも、訓練、評価、見直し、維持管理を行う業務継続マネジメント、いわゆるBCMの重要性が示されています。
在宅医療の現場であれば、まずは簡単なシミュレーションから始めるとよいと思います。
たとえば、次のような場面を想定します。
大雨で主要道路が通行止めになりました。
訪問予定の患者さんが20人います。
スタッフのうち2名が出勤できません。
電話はつながりにくくなっています。
このとき、誰が最初に何を確認するのか。
どの患者さんを優先するのか。
どの訪問を延期するのか。
患者さんやご家族には誰が連絡するのか。
訪問看護や薬局にはどう連絡するのか。
こうしたことを、スタッフ全員で話し合ってみるのです。
実際にやってみると、必ず課題が出ます。
「安否確認といっても、何を確認すればよいのか、人によって違っていた」
「電話が使えない前提で考えていなかった」
「院長先生が不在の場合の判断者が決まっていなかった」
「患者さんの最新連絡先が更新されていなかった」
「人工呼吸器を使っている患者さんの電源確保について、家族と十分に話せていなかった」
こうした気づきが非常に大切です。
訓練の目的は、失敗しないことではありません。
むしろ、平時に失敗しておくことです。
訓練で見つかった課題を、BCPに反映する。
連絡網を直す。
患者リストを更新する。
アクションカードを作り直す。
役割分担を変更する。
これを繰り返すことで、BCPは現場で使えるものになります。
また、BCPの見直しは、災害訓練の後だけではありません。
スタッフの異動があったとき。
新しい在宅医療システムや電子カルテを導入したとき。
訪問エリアが広がったとき。
患者層が変わったとき。
近隣の医療機関や訪問看護ステーションに変化があったとき。
法令や制度が変わったとき。
こうしたタイミングでも、BCPを見直す必要があります。
そして、在宅医療においては、自院のBCPだけで終わらせないことが大切です。
なぜなら、在宅医療は地域の中で成り立っているからです。
災害時には、診療所だけでは対応できない課題が必ず出てきます。
在宅酸素や人工呼吸器の患者さんの電源をどう確保するのか。
独居高齢者の安否確認を誰が行うのか。
在宅避難者の健康モニタリングを誰が担うのか。
訪問看護、薬局、ケアマネジャー、介護事業所、行政、保健所、消防と、どのように情報を共有するのか。
避難所や救護所への支援を、地域の医療機関がどう分担するのか。
こうしたテーマは、一つの診療所だけでは決められません。
だからこそ、連携型BCP、地域BCPという考え方が必要になります。
まずは、自院と日常的に関わっている機関との間で、話し合いを始めることです。
災害時に、どの患者さんを誰が確認するのか。
安否確認の結果を、どのように共有するのか。
重複して電話しすぎて、患者さんのスマートフォンの電池を消耗させないようにするにはどうするか。
医療機関や訪問看護が地域支援に参加する場合、その記録や対価をどう考えるか。
こうした実務的な話し合いが必要です。
地域BCPというと、大きな会議体や行政主導の取り組みを想像されるかもしれません。
もちろん、それも重要です。
しかし、最初の一歩はもっと身近でよいと思います。
近隣の在宅医療機関と、災害時にどう助け合えるかを話す。
訪問看護ステーションと、優先患者の情報を共有する。
薬局と、薬剤供給や処方変更時の連絡方法を確認する。
ケアマネジャーと、独居や高リスク患者の支援体制を確認する。
この積み重ねが、地域BCPにつながります。
BCPは、災害時だけのものではありません。
平時の業務改善にもつながります。
患者リストが整理される。
連絡体制が明確になる。
スタッフの役割分担が見える。
地域の関係機関との連携が強くなる。
業務の優先順位が共有される。
つまり、BCPを作ることは、在宅医療の質を高めることでもあります。
最後に、院長先生、事務長さんにお伝えしたいことがあります。
BCPは、完璧でなくて構いません。
最初からすべてを網羅しようとすると、なかなか進みません。
まずは、自院の患者さんとスタッフを守るために、今わかっていることから整理する。
優先患者を確認する。
連絡体制を整える。
業務の優先順位を決める。
簡単な訓練をする。
見つかった課題を直す。
この繰り返しで十分です。
在宅医療は、地域の暮らしを支える大切な医療です。
だからこそ、災害時にも、できる限り途切れさせない準備が必要です。
BCPは、そのための実務設計図です。
患者さんの命と生活を守るために。
スタッフの安全と生活を守るために。
そして、地域の在宅医療を守るために。
ぜひ、できるところからBCP作成に取り組んでいただきたいと思います。

