あなたが現在見ているのは 在宅医療のBCPは、なぜ「診療所だけの問題」ではないのか(第1回/全6回)

在宅医療のBCPは、なぜ「診療所だけの問題」ではないのか(第1回/全6回)

→目次に戻る

こんにちは。M&Cパートナーコンサルティング代表の村上佳子です。

今回から6回にわたって、在宅医療に取り組む医療機関の皆さまに向けて、「BCP作成のポイント」についてお話しします。

BCPという言葉は、最近よく聞くようになりました。

Business Continuity Plan、つまり業務継続計画です。

ただ、在宅医療におけるBCPは、単に「災害時のマニュアルを作りましょう」という話ではありません。

在宅医療は、患者さんが医療機関の中にいるわけではありません。

患者さんは、ご自宅や施設で生活されています。

医師、看護師、事務スタッフ、相談員が、車で移動し、患者さんの生活の場に入って医療を提供しています。

だからこそ、災害が起きたときの影響は、医療機関の建物の中だけでは収まりません。

たとえば、大雨で道路が冠水したらどうでしょうか。

訪問予定の患者さんの家に行けないかもしれません。

地震で停電したらどうでしょうか。

在宅酸素、人工呼吸器、吸引器など、電気を必要とする医療機器を使っている患者さんへの対応が必要になります。

感染症で院長先生が診療できなくなったらどうでしょうか。

小規模な診療所では、医師が1人、看護師が数人という体制も少なくありません。

そのとき、外来診療はどうするのか。

訪問診療はどうするのか。

緊急往診は誰が対応するのか。

患者さんやご家族には、誰が、どのように連絡するのか。

こうしたことを、発災してから考えるのでは、どうしても後手に回ってしまいます。

厚生労働省の「BCP策定の手引き 在宅医療を提供する診療所編」でも、非常に大事な考え方が示されています。

それは、平時から考え、検討することで、有事の選択肢を増やす、ということです。

私は、ここが在宅医療BCPの一番のポイントだと思っています。

BCPは、災害時に「いつも通り全部やる」ための計画ではありません。

むしろ、いつも通り全部はできない、という前提に立つものです。

限られた人員、限られた車両、限られた通信手段、限られた医薬品や衛生材料の中で、何を優先するのか。

どの患者さんを先に確認するのか。

どの業務は縮小するのか。

どの業務は一時的に止めるのか。

そして、自院だけでは難しい場合に、誰に助けを求めるのか。

ここまで考えておくことがBCPです。

在宅医療では、診療所単独で完結できることには限界があります。

病院、訪問看護ステーション、薬局、ケアマネジャー、介護事業所、行政、保健所、消防、地域包括支援センターなど、普段から関わっている地域の関係機関との連携が不可欠です。

つまり、在宅医療のBCPは、診療所の中だけで作るものではありません。

まずは自院のBCPを作る。

そのうえで、地域の関係者と共有し、連携型BCP、地域BCPへ広げていく。

この視点がとても大切です。

院長先生や事務長さんには、BCPを「提出用の書類」として見てほしくありません。

BCPは、患者さんの命と生活を守るための計画です。

同時に、スタッフの安全と生活を守るための計画です。

さらに言えば、地域の在宅医療を止めないための経営戦略でもあります。

最初から完璧なものを作る必要はありません。

まずは、自院の在宅患者さんの中で、災害時に特に支援が必要な方は誰か。

スタッフが半分しか出勤できなかったら、何を優先するか。

電子カルテや電話が使えなかったら、どう記録し、どう連絡するか。

そこから考え始めていただきたいと思います。

BCPは、作ること自体が目的ではありません。

作る過程で、自院の弱点に気づくこと。

地域とのつながりを見直すこと。

スタッフ全員で、非常時の判断基準を共有すること。

そこにこそ意味があります。

次回は、よく混同されやすい「災害対応マニュアル」と「BCP」の違いについてお話しします。

ここを整理すると、BCP作成の全体像がかなり見えやすくなります。

→目次に戻る