前回は、五月病の原因と早期発見の重要性について解説しました。今回は、具体的な対策として、3つをご紹介します。
対策1:日常会話の中に「気づき」を
五月病は、医師や看護師だけでなく、受付・事務スタッフにも起こりえます。事務長として、職員の様子を日々観察し、ちょっとした変化に気づくことが大切です。
事例: 受付スタッフAさんが、いつも明るい挨拶の声が小さくなり、表情も少し暗くなっていました。休憩中も一人でスマートフォンばかり見ていて、周囲とあまり話をしていない様子です。
対応例: 昼休みなどに「最近、忙しかったね。少し疲れてない?」と声をかけ、業務に関係のない雑談を交えるなど、無理に話を聞き出そうとせず、表情や反応を見ながら話しかけることで、本人が「気づいてくれている」と感じるように促します。
効果: 「自分の変化に気づいてくれる人がいる」という実感が、孤立感の予防になります。話しかけやすい雰囲気をつくることで、悩みを抱え込まずに相談しやすくなります。
対策2:完璧を求めすぎない環境づくり
新人や異動者は、「期待に応えなければ」と無意識にプレッシャーを感じています。上司やベテラン職員が「完璧でなくても大丈夫」「困ったらすぐ相談して」といった安心感を伝えるだけで、心理的安全性がぐっと高まります。職場に「相談できる空気」があることが大切です。
事例: 新人看護師Bさんが、注射準備でミスをしてしまい、「自分は向いていないかもしれません…」と涙ぐむ場面がありました。
対応例: 「誰にでも最初はミスがあるよ。ミスが起きたあと、どう改善するかが大事なんだよ」と伝え、同じように苦労した先輩の経験談を紹介します。失敗が責められることではなく、学びのきっかけであるという姿勢を共有します。
効果: 過度なプレッシャーが軽減され、「失敗しても相談していいんだ」という安心感が職場に広がります。心理的安全性が高まり、メンタル不調の予防につながります。
対策3:小さな成功を共有する
五月病の対策には「自己効力感=やればできる感覚」が効果的です。「初診の患者対応、落ち着いてできていたね」「昨日の予約管理、助かったよ」といったポジティブなフィードバックを小まめに伝えましょう。周囲からの承認は、不安や無力感の予防につながります。
事例: 事務スタッフCさんが、予約システムの設定で新しい操作を覚え、スムーズな患者対応に貢献していましたが、本人は「当たり前のことをしただけです」と答え、自信がない様子で笑顔がありませんでした。
対応例: 朝礼で「昨日の午後の予約対応、Cさんが間に入ってくれて本当に助かりました」と声をかけ、全体の前で頑張ってくれている様子を賞賛します。また、直接「成長してるね。安心して任せられる」と個別にフィードバックするとよいでしょう。
効果: 自己効力感(やればできるという感覚)を育むことができ、職務に対するモチベーションや責任感が強まります。五月病に多い「無気力感」を和らげる効果があります。
さて、今回ご紹介した3つの対策は、どれも日々のちょっとした心がけで実践できるものばかりです。しかし、忙しい毎日の中で、つい見過ごしてしまうこともあるかもしれません。そこで、次回は、事務長の皆様が「気象予報士」のように、職場の空気を読み、五月病の兆候にいち早く気づくためのヒントをお届けします。職員の小さな変化に気づき、適切な声かけでサポートするための、具体的な方法をご紹介しますので、ぜひお楽しみに。

長 幸美(ちょう ゆきみ)
(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。
