近年、消費者庁による医療法人に対するステルスマーケティング(ステマ)規制に基づく行政処分が相次いで報道されています。
先月(令和7年3月)には、医療法人社団スマイルスクエアが経営する「スマイル+さくらい歯列矯正歯科二子玉川」において、ステマ行為があったとして、景品表示法に基づく措置命令(行政処分)が下されました。
この報道を見て、
「自由診療なら広告を出しても問題ないのでは?」
とお考えになった方がいらっしゃれば、それは極めて危険な誤解です。
今回は、ステマ規制が自由診療にも当然に適用される理由と、医療機関の実務責任者である事務長として取り組むべきリスク対策について、わかりやすく解説いたします。

■ 「自由診療=ステマOK」は大きな誤解
まず、明確に申し上げます。
自由診療であっても、ステマは完全に違法です。
2023年10月に施行された景品表示法第5条第3号に基づく「ステマ告示」により、
広告であることを隠した「口コミ投稿の誘導」や「報酬付きレビュー依頼」などは、表示内容の真偽にかかわらず、その広告手法自体が問題視され、不当表示として処分対象となります。
つまり、保険診療か自由診療かは関係なく、すべての広告表示がステマ規制の対象です。

■ ステマの定義と、なぜ違法なのか
ステルスマーケティング(ステマ)とは、広告主が自ら行った広告であるにもかかわらず、消費者に「第三者の自然な口コミ」や「中立的なレビュー」のように誤認させる行為を指します。
❌ ステマと判断される代表的な行為
- Googleマップに「★5レビュー」を投稿すれば〇〇円引き
- インフルエンサーに「PR」表記なしで商品・サービスを紹介してもらう
- 医療機関のスタッフや関係者が、一般患者を装って口コミを投稿する
これらはいずれも、誰が表示しているのかが不明確であるため、景品表示法に違反する「不当表示」として、消費者庁の監視・処分の対象となります。

■ 自由診療も規制対象になる理由
これまで医療広告は、医療法に基づく広告ガイドラインによって規制されており、景品表示法のことをご存じない方もいるでしょう。医療法では、保険診療は、広告してはいけないが自由診療報自由という認識があるからです。このため、業界内には
「医療広告は景表法の適用外」
と考えてしまいがちです。
しかし、ステマ告示はこれまでのように表示内容(優良誤認や有利誤認)を問題とするのではなく、表示の主体(誰が広告を出したのか)ややり方を問題にしています。そのため、医療法でカバーされない広告表示の「主体」つまり、医療機関そのものに関する問題については、景表法では適応されます。
✅ ポイント
- ステマは景表法で明確に禁止されており、診療形態(自由/保険)を問わず適用される
- 広告の内容ではなく、「誰が広告しているか」が違法性の判断基準となる
したがって、自由診療の広告だからといってステマが許されるわけではありません。

■ 実際の行政処分事例から学ぶ
📍 ケース1:医療法人スマイルスクエア(二子玉川)
患者に対し、「Googleレビューで★5評価を投稿すればQUOカード5,000円分を進呈」と案内。
➡ 表示が事業者の関与によるものであることが明示されておらず、ステマとして処分。
📍 ケース2:医療法人祐真会(大田区)
インフルエンザワクチン接種の患者に対し、「高評価レビュー投稿で550円割引」と案内。
➡ 消費者庁が投稿削除と再発防止の措置命令。
これらはすべて自由診療に関する表示であり、「保険診療ではないから規制対象外」とはならないことを明確に示しています。
■ 医療機関の広告リスク、事務長がチェックすべきこと
ステマ規制の時代、医療機関では以下のような点に細心の注意が求められます。
✅ 口コミ・レビュー依頼時の注意点
- 報酬や割引などの「見返り」を条件に、レビューや評価を依頼しない
- 投稿が広告であることを「PR」「提供」「広告」などで明示する
✅ 外部委託先の管理体制の確認
- ホームページやSNSの運用を外部委託している場合、ステマ的手法が用いられていないか確認
- インフルエンサー施策については、「広告主である旨の明示」や契約書でのルール明記が必要
✅ 院内のスタッフ教育
- 医師、歯科医師、スタッフにステマ規制の内容を共有
- 「どんな行為が違反になるのか」を具体的な事例とともに解説
■ まとめ:事務長が守るべきリスク管理の一手
「自由診療だから大丈夫」という考え方は、すでに通用しない時代に入りました。
広告であるかどうか。
その広告を誰が発信しているのか。
——この基本に立ち返り、広告表示の見直し・委託業者との契約内容の再確認・職員への教育の徹底を行うことが、医療機関の信頼維持と経営リスク回避につながります。広告コンプライアンス体制の整備が求められています。