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「介護老人保健施設の経営状況」について

 

 独立行政法人福祉医療機構は、2023年度における介護老人保健施設の経営状況に関するレポートを公表しました。この調査によると、入所・通所ともに利用率および利用者単価が上昇し、事業利益率は前年比1.3ポイント増の2.3%となっています。赤字施設の割合も31.9%まで減少し、前年より9.2ポイント改善されました。経営状況は一定程度回復しているといえますが、報告では「コロナ禍前の水準にはまだ戻っていない」と指摘されています。 

 利用率の上昇には、医療機関からの入所者が増加したことや、家庭への退所者の増加により在宅復帰が進んだことが影響しています。また、施設類型別では、基本型・加算型・在宅強化型・超強化型のすべてで事業利益率が改善され、赤字施設の割合も縮小しました。黒字施設と赤字施設の主な違いとしては、まず利用率に明確な差がありました。入所では約5ポイント、通所では6ポイント以上の開きが見られます。加えて、利用者単価も黒字施設の方が高く、入所定員1人あたりの年間事業収益は黒字施設で5,965千円、赤字施設では5,541千円と、424千円の差が生じています。

 経費構造にも違いがあり、人件費率は黒字施設で59.6%、経費率は19.6%に抑えられていた一方、赤字施設ではそれぞれ66.8%23.9%と高水準でした。特に人件費の負担が経営悪化の要因とされており、これは赤字施設では利用者10人あたりの従事者数が多く、かつ従事者1人あたりの人件費も高いことに起因しています。また、ターミナルケア加算(看取り対応)の算定率も黒字施設の方が約7ポイント高く、幅広いニーズへの対応力が収益につながっていることが読み取れます。

 2024年度の介護報酬改定では、在宅支援体制の強化が大きな柱となっており、今後も安定した経営を維持するには、利用率のさらなる向上やサービス体制の整備、そして加算の適切な活用が鍵となります

 

原田 和将

一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。