301人以上を常時雇用する企業を対象に、女性活躍推進法が省令改正(2022年7月8日施行)され、「男女の賃金の差異」について公表を義務付ける法改正が行われました。
男女の賃金の差異公表へ
従来は、❶「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」に関する実績と、❷「職業生活と家庭生活との両立」に資する雇用環境の整備に関する実績の情報公開が求められていましたが、今回から「男女の賃金の差異」を公表する必要が生じます。
いつからの公表が求められるか、については法施行後に最初に終了する事業年度の実績から公表することとし、例えば3月決算の場合は2022年度の実績を2023年4月以降(おおむね3か月以内)に公表する事となります。
公表する男女の差異について、具体的な分類方法は以下の通りです。
(1) 男性 正規労働者 賃金総額と人員数
(2) 女性 正規労働者 賃金総額と人員数
(3) 男性 非正規労働者 賃金総額と人員数
(4) 女性 非正規労働者 賃金総額と人員数
上記の4種類の労働者それぞれについて、一の事業年度の賃金総額と人員数を計算し、一人あたりの年間の平均賃金を算出します。(総賃金÷人員数)
※なお、総賃金の計算は源泉徴収簿で計算する方法を計算例として挙げられています。
最後に、(1)と(3)の平均(⇒男性すべての労働者(5))、(2)と(4)の平均(⇒女性すべての労働者(6))を計算します。
そして、(1)÷(2)、(3)÷(4)、(5)÷(6)を計算し、賃金の割合を算出し、公表する、という仕組みです。
世界と比べ大きい男女格差
この法改正は、日本の男女間賃金格差が世界の主要各国に比べて大きいことが問題の根底として存在し、管理職への女性登用がなかなか進まないこと、出産・子育てで退職や時間制約等を受けることにより、正規社員に戻りにくいという実態があります。現時点では、公表方法は企業単体ごとに男性の賃金水準に対する女性の割合を開示させ、自社のホームページ掲載や、女性の活躍推進企業データベースの利用等を行う事となっています。
今回の法改正は301人以上の企業を対象としていますが、こういった法改正はタイミングを見て、いずれ人数を緩和することは自明の理です。(近い将来101人以上に緩和されるでしょう。)医療・介護業界の男女間賃金格差はまだ他業種に比べて小さい可能性はありますが、男女別に学歴の換算方法や初任給の設定方法が違う、という運用はまだ残っているケースも散見されます。今後の方向性として、合理的理由を説明できない賃金体系は淘汰されていく運命にありますが、この数値の大小のみで各企業の女性活躍推進の取り組みがすべて網羅されるわけでもありません。賃金の差異について合理的理由を説明することができる賃金の仕組みの構築を進めることを前提として、同時に数値の結果の公表のみならず、自社がどのような女性活躍のための仕組みを設け、相応しい女性役職者を増やしていくために教育していくのか、また家庭生活との両立をいかに図っているのか、という点について説明を丁寧に行っていく必要があります。
ここがポイント
今後の社員採用においては、来年度以降の採用希望者が相当の高確率でこの数字実績を確認して応募をすることが想定されます。まずは現時点での自社内の実績、差異の程度、理由を確認した上で、どういう実態が現れるかを確認することから始めましょう。
石井 洋(いしい ひろし)
M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。