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人材版伊藤レポート2.0を医療機関に考える

 今回は、経済産業省が5月13日経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するかに着目し、企業の人的資本に関してまとめた「人材版伊藤レポート2.0」について、整理します。この内容は、2020年9月に公表した「人材版伊藤レポート」を深掘りするために設置した「人的資本経営の実現に向けた検討会」報告書に、「実践事例集」を追加した内容となっていますが、今後の医療機関の経営に向けても必要な示唆を数多く含んでおり、医療機関の皆様にも一度は全体を読んで頂きたい内容であると考えています。

 まず人材版伊藤レポートにおいて、人材戦略について産業や企業より異なるものの、俯瞰した場合の3つの視点を整理しています。それは以下の通りです。

「 経営戦略と連動しているか」
「 目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握できているか」
「 人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか」、という点である。

この内容について解説をします。

 まず、と人材戦略について、連動を意識される医療機関さまも増えてきていると思いますが、経営戦略を実際に「具現化」「実現」するために、人事戦略としてそれをどう盛り込むか、というところまで深めている、という事はまだ少ないかと思います。

 次に、目指すべき経営戦略に向けて、どのレベルの人材(質)が、どの程度の人数(数)必要であるかを明らかにし、それを現在の医療機関に当てはめると、どうなるか、というギャップです。この部分で今後数年間にわたっての事業計画である場合には、今いる人材が何年後に定年退職をむかえるかを確認することも必要です。クリニックにおいては、目指すべき医療サービス、地域における役割を果たす上で、今いる職員の質を判断し、どの部分にギャップがあるかを把握する、という事です。

 最後に、については仮ににおいての人材ギャップがある場合の問題です。特に目指すべき経営戦略に向けて必要な人材レベル(質)と今在籍している職員のレベルに乖離がある場合は問題となり、そのギャップをいかにして解消するか、解消するための人材育成や指導、評価体系が連動してギャップを解消する企業文化が定着しているか、という点を問うています。この点について、ギャップがある事は認識しつつ、評価をするのみで実際の育成計画や指導・育成をしていない、ということであれば、足りないことを認識しながらずっと変わらない状態を維持する、という事に陥りかねません。

 更に、人材戦略の具体的内容として、5つの共通要素を抽出していますが、今回は3点を抜粋してご紹介します。

目指すべき将来と現在との間のスキルギャップを埋めていく(「リスキル・学び直し」)
多様な個人が主体的、意欲的に取り組めているか(「社員エンゲージメント」)
新型コロナウイルス感染症への対応の中で、更に明確になった要素として、「時間や場所にとらわれない働き方」
の3点を紹介します。

 リスキルという考え方は、特に新型コロナウイルスの影響・物価上昇等も含めて経営環境が近時大きく変わりつつある時代の中で、職員の方々がどう経営目標達成に必要なスキルを学びなおすか、またそのリスキルに関する責任者は誰か、どうやって職員にリスキルに挑戦できる機会と時間を提供するか、等を検討する必要があります。このリスキルは現状担当業務の多忙さを理由に優先順位が下がる可能性がありますので、その重要性をどう周知るか、リスキル後に期待される役割と処遇との関係について明確にする必要もあるでしょう。

 社員エンゲージメントは社員満足度調査とは厳密に言えば異なります。社員満足度はあくまで社員が会社に対して満足しているかどうかであって、社員エンゲージメントは会社理念・ビジョンへの共感性、それに対する自発的、積極的に取り組めるかどうかを問うことになります。

 最後に「時間や場所にとらわれない働き方」については直近の新聞記事でその具体化が紹介され始めました。NTTは勤務場所を原則として自宅とし、出社する場合は出張扱いとすることで交通費は上限を設けず、航空機を使った出社も認める、という発表をしています。医療機関ではそんなの無理だ、という現実の声も良くわかります。しかし、今後少子高齢化が進む中で、医療機関同士でも人材獲得の競争どころか争奪戦の様相を呈している中、働き方を医療機関においても考えることは絶対に必要です。

 人材版伊藤レポート2.0、すべてが医療機関に該当する、すぐ実現できるとは言いませんが、人事ご担当者の方は一読されてください。

労務管理_石井氏

石井 洋(いしい ひろし)

M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。