― 患者本人だけに向けられたサービスを意識するという提案 ―
人は誰しも、「自分だけに向けられたサービス」に心を動かされます。その視点から、勉強会を企画してみてはいかがでしょうか。
たとえば、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」をテーマにするのも一案です。ACPとは、心身の機能が低下したときに備えて、どのような医療やケアを受けたいかを、患者本人が家族や親しい人とあらかじめ話し合っておく取り組みです。厚生労働省の資料でも紹介されており、「その人だけのオリジナルプラン」を考える機会になります。
人生の最終段階で、延命治療を希望するかどうか、認知症が進行した場合に胃瘻を作るかどうか、旅立ちの場所は自宅か病院か…。誰にとっても避けられない「もしもの時」に備え、元気なうちから準備しておくことが大切です。
専門家によれば、「病気が発症してから死について語るのはタブーになりがち。元気なうちに話す習慣をつけることが、悔いのない最期につながる」とのこと。まさに、かかりつけ医が関わるべき重要なテーマといえるでしょう。
また、ACPをはじめとした人生の最終段階における意思決定のプロセスは、国が制度整備を進めている分野でもあります。制度に先行して取り組み、地域から信頼される医療機関を目指しましょう。
■ 誕生月に「患者目線」の体験会を
「毎年、誕生月にアドバンス・ケア・プランニングの体験会を開く」という取り組みはいかがでしょうか。その際に意識していただきたいのは、「患者が知りたい情報」と「医療・介護のプロが伝えたい情報」との掛け算になっているかどうかです。
近年では、インターネットを通じて患者側もある程度の知識を持っている場合が多いため、成功する勉強会は「ネットには載っていない専門的かつ患者に寄り添った情報」がポイントとなります。一般論にとどまらず、その地域・その患者の状況にフィットした内容が求められます。
■ ACPは「生への意識」も高める広報活動
ACPの取り組みは、実は効果的な広報活動にもなります。
たとえば、50代の方がACPを通じて「がんになったらどうするか」と真剣に考えたとします。すると、「そもそもがんにならないように予防しよう」という意識が芽生えるかもしれません。
このように、死を見つめることは同時に「生を見つめる」きっかけにもなります。その際、医療従事者がそばにいれば、「2年に一度はPET健診を受けましょう」など、具体的な予防策をその場で伝えることができます。
その予防サービスが自院にあれば自然なかたちで案内できますし、なければ信頼できる連携先を紹介することで、患者と連携先の両方との関係性を深める機会にもなります。
■ まとめ:ACPは「その人だけの医療」と「地域広報」の接点
アドバンス・ケア・プランニングは、単なる医療の選択ではなく、人生をどう生きるかという問いにもつながります。そして、それは同時に、地域に根差したクリニックとしての役割を再確認する機会でもあります。
制度の整備を待つのではなく、地域から必要とされる存在になるために、一歩先んじた取り組みを始めましょう。