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「オレンジイノベーション」について

 

令和7年度、経済産業省と厚生労働省が連携して進める「オレンジイノベーション・プロジェクト」が改めて注目を集めています。この取り組みは、認知症当事者の意見や経験を直接取り入れながら、企業と共に商品やサービスを開発する取り組みです。ファスナーの開け閉めがしやすい衣服や、手首に巻くメモ帳など、当事者の「こうだったらいいのに」という声から生まれた実例がすでに商品化されています。

 その象徴とも言えるのが、リンナイ株式会社が開発した新型ガスコンロ「SAFULL+(セイフル・プラス)」です。リンナイの社員の方々は、認知症当事者が調理する様子を目の当たりにし、「最新のガスコンロでは使いづらい」と痛感します。そこで、調理動作の観察やARによる認知症疑似体験などを通じて開発に取り組みました。認知症当事者の協力も得て4回のモニタリングを重ね、「鍋を置きやすいゴトク」や「聞き取りやすい音声案内」、点火スイッチの「間違え防止のカラーリング」など、当事者の視点が細部にまで反映された製品が完成しました。

 さらに注目すべきは、こうした製品の完成以上に、認知症の方々が「社会とのつながりを感じられた」「自分が必要とされていると思えた」と感じることができた点です。これは、認知症の方々のQOL(生活の質)を高める新たなアプローチであるといえます。

 医療や介護の現場では日々、認知症の方々と向き合いながら、「何が本当に本人のためになるのか」を模索しています。ケアだけでなく、「本人の声を社会に届ける橋渡し」も今後の社会の中では重要な役割の一つになっていくのかもしれません。製品開発や制度設計に繋げる仕組み作りが今後の社会の中で新しい価値を生み出すはずです。 

 

原田 和将

一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。