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HOSPITALITY 〜長先生の接遇レッスン〜 VOL.65「新人指導・・・それってパワハラ?~①」

先輩スタッフの立場から考える「指導とパワハラの境界線」  
 新年度、職場にはフレッシュな顔ぶれが加わります。新人を迎える側の私たちも、「しっかり教えなければ」と気が引き締まる時期です。しかし、熱心に指導したつもりが、「パワハラでは?」と思われてしまうことも少なくありません。

「叱る」と「怒る」の違いをご存じでしょうか?
 前者「叱る」は、相手の成長を願った建設的なフィードバックであり、後者「怒る」は感情に任せた行動です。…とはいえ、実際には簡単なことではありません。新人は経験も知識も未熟です。できていない部分をそのまま叱責してしまうと、かえって委縮させてしまい、成長の妨げになることもあります。

 ここでは、3つの事例を通じて、指導とパワハラの違いについて考えてみましょう。
■事例①:感情的な注意が“萎縮”を招いたケース
 新人が報告を忘れたことに対して、先輩スタッフが「何度言ったらわかるの!もううんざりだ。最低!」と強い口調で注意しました。

その後、新人は自ら話しかけられなくなり、業務もぎこちない状態が続いてしまいました。

 例えば、「何度言ったらわかるの?」「これは教えましたよね」「またこんなことやってる、最低!」といった言い方は、指導というより“攻撃”と受け取られがちです。

指導の場では、「今回はこの点ができていなかったけれど、次はこうするともっと良くなるよ」「こういう問題が起こらないように、この手順を意識してみようね」といった、未来志向かつ具体的なアドバイスを心がけましょう。

■事例②:人前での注意が信頼関係を損ねたケース
 受付で対応を誤った新人に対して、先輩が患者の前で「それ、違うって言ったでしょ」と声を荒げてしまいました。新人は自信を失い、患者対応を避けるようになってしまいました。

人前での注意は“公開処刑”と受け取られるリスクがあります。信頼関係を築くどころか、教育効果も損なわれてしまいます。

「今すぐ指摘しないと患者対応に支障が出る」と感じる場面では、まず声のトーンを落とし、最低限の伝達にとどめ、後から丁寧に説明することが望まれます。そして、後でフォローの声かけをすることが信頼関係の回復につながります。

■事例③:何もさせず放置する“無視型ハラスメント”
 入職した新人を自分の横に座らせ、「何をやっているか見ておいて」「今忙しいから、そこに座っといて」と言い、昼休憩まで声をかけないまま放置していたというケースがありました。

 また、別の職場では「ミスされると困るから」と、新人を何日も業務に入れず、待合の隅に座らせたままにされたケースも・・・。この新人は声もかけられず、役割も与えられず・・・、居場所を失った新人は数日で退職してしまいました。

これは明確な「教育放棄」であり、精神的な無視という意味で、パワハラに該当します。たとえ見学中心の初日であっても、「今日は〇〇を見てもらうね」「わからないことがあれば、いつでも聞いてね」といった関わりの意思表示が必要です。

また、業務を任せるのが難しい状況でも、「備品チェック」「患者案内の補助」など、小さくても役割を持たせることで、その人の存在を認めることができます。

■まとめ:指導に求められる3つの視点

今回は、新人を教える側の立場から、指導とパワハラの違いを見てきました。大切なポイントは以下の3つです。

  1. 感情ではなく、目的を持った指導を行う(叱る≠怒る)
  2. 指導の場面・方法に配慮する(人前・時間・場所)
  3. 新人の立場に立って“受け取り方”を意識する(無視は最大の拒絶)

 チーム全体で「新人を迎え入れる空気」をつくることが大切です。たとえば「誰かが毎日5分は声をかける」など、小さな関わりの積み重ねが、安心して働ける環境をつくります。

最後に… 
 山本五十六氏の有名な言葉があります。

「やってみせ、言って聞かせて、
させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

 これはまさに、教育・育成の基本。自分が率先して行動を見せ、言葉で伝え、やらせてみて、成果をほめる。この積み重ねが新人育成には不可欠です。

そしてこの言葉には、さらに続きがあります。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず
 やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

 新人が成長するにつれ、物事が見え、意見を持ち始めます。その時にこそ、耳を傾け、認め、任せていく。そして努力を感謝し、信頼することで、人は大きく実っていきます。

 次回は、「新入職員の立場」から見た指導の受け止め方をお伝えします。

長 幸美(ちょう ゆきみ)

(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。