医療法人や社会福祉法人の事務長に役立つ情報を集めたサイトである『 事務長ねっと 』。
今回もM&Cパートナーコンサルティングの村上先生と浦上先生の対話をご紹介します。他業種からクリニックの事務長として直面した問題とその解決法は、20年たった今も学びの宝庫です。
語り手/浦上 誠氏
NC・Cブレイン 代表/診療所及び介護事業所の開業支援、経営改善の提案、幹部・スタッフ教育、講演・執筆活動を行なう。特に在宅医療や介護事業所の経営改善や運営支援を得意とし、診療所や介護事業所の看護師や介護福祉士等を中心としたスタッフ教育は、現場に即した解説が多く、分かりやすいと定評がある。
公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 熊本県支部長、社会福祉士、介護支援専門員、熊本県医療勤務環境改善支援センター 医業経営アドバイザー
聞き手/村上 佳子 氏
M&Cパートナーコンサルティング代表取締役
他業種から医療界への挑戦 - 浦上誠さんの事務長としての道のり
村上: 異業種からいらして、一番驚いたことは何でしたの?
浦上:マナーのなさです。
村上:看護師さんたちに対するマナー教育はどのように進めましたか?
浦上: まずは一般的な研修を行いました。しかし、かなりの反発がありました。「医療の現場は何も知らないくせに、偉そうに・・・」という感じで、陰口を叩かれることもありました。これまでの研修対象の職場では、男性が多くを占める会社ばかりで、研修する立場の人が指示をすれば従うというのが一般的でした。医療界は、ほとんどが女性であり、これまでとは違った、もっときめ細やかなアプローチが必要でした。「マナーをちゃんとしなさい」といっても「看護技術と関係ないでしょ」という感じなのです。ですから、個別に声掛けするなどの工夫をしましたね。まずは「働いてもらってありがとう」という尊敬の気持ちを打ち出して、そこから話をきくような…。マナー研修も「こうあるべき」ではなくて、当院の理念を説明し、それだったらどう動くのが正しいでしょうか、という感じで問いかける方法に切り替えたんです。
村上: なかなか難しいですね。
浦上: そうなんです。正しいことを言ってもやめられてしまっては困るわけです。求人についても、クリニック側に選択権はなく、看護師のほうも「選ぶのは私たちの方です」と言いますから。しかし、社会人としての礼儀や振る舞いを教えることも重要で、今の時代は家庭で教えられないことも職場で教える必要があります。ケアマネージャーや居宅介護支援事業者として、家庭を訪問することもあり、礼儀があります。そのアプローチや方法を教えたりしました。名刺の渡し方から教えることもあります。簡単ではありませんでしたが見てもらい経験してもらうことで伝えました。
村上: というと?
浦上:実際にやって見せたんですよ。自分でやってみせることにしました。当時困っていたのは、ケアマネが営業に行ったら2時間も帰ってこないことでした。報酬はきまっているわけですから、臨機応変にやってもらいたいわけです。そこで、原価計算方法なども教えながら、どうすればいいかを一緒に考えるのですが、本人たちに言わせるとそんなに簡単に話の腰を折って帰れないというわけです。そこで、それならと言って、私も一緒に出かけていって、話のまとめ方をみてもらうわけです。営業はダラダラやらずに、次に行かないといけないので、30分で終わるように決めていくのだと教えて、実際にそれをやってみる。そうすると、伝わります。
村上: 素晴らしいですね。他にはどんなことをやりましたか?
浦上:「このクリニックの存在意義は何か」という「使命感」作りもやりました。理念を作り、医者やスタッフの動機をまとめて文章化し、クレドとして公開しました。これは非常に重要で、今でも続けています。
村上: 効果はありましたか?
浦上:ありました。「私たちのクリニックが、もし今日潰れたら明日から地域住民が困るだろうか?」、どうかの議論は白熱しました。当時当院の周りにはいくつもクリニックがありましたので、「私達のクリニックが潰れても誰も困らないのでは?」という事から語り始めるわけです。そんなことを考えたこともなかったでしょうから。「誰も困らないとしたら、嫌だよね。だったらどうしたら、求められるようなクリニックになるんだろうね。」と対話形式で深めていくと、接遇や声掛けも変わってきました。
村上: 看護師のチームワークについてはどのように進めましたか?
浦上: それぞれのセクションを超えて話し合い、チームワークを育てました。最終的には「在宅での最期を迎えられるように支援する」という目標に向けて、全員が一丸となりました。
村上: 事務長の役割を全うするうえで、一番大事なことって何んだと思いますか。
浦上: 指示だけでなく、ともに悩みともに動き、ともに成長することです。また、伝えたいことがあれば、相手のレベルに落とし込む技術が必要です。私は小さい診療所で始めましたが、この考え方ややり方はどのような規模の医療機関にも適用できると思います。