新型コロナウイルス感染症の影響を受けて実施を控えられていた感がある労働基準監督署・年金事務所による調査が徐々に再開されている印象を受けます。今回は、①労働基準監督署の調査、②年金事務所の調査がどういった形で行われ、何をチェックするのかを解説します。
(1)労働基準監督署の調査について
前提として、労働基準監督署は労働基準法令遵守指導、違反行為の取締のために事業主や労働者に対して報告・出頭を命じることができ、又は立入調査を行う権利等や、違反者を逮捕・送検する権利も付与されています。
上記のような書類の存否・内容の整合性を確認し、不備があれば、労働基準監督署から是正勧告が出される事になります。なお、労働者からの具体的な法令違反等の申告に基づいて行われる「申告監督」の場合、事前にある程度の事情を把握し、問題の所在を把握している可能性が高く、通常よりも厳しい調査になる場合が多いと言えるでしょう。特に医療機関(特にクリニック)においての特徴は、人間関係のもつれや院長・スタッフ間の人間関係に問題が発生した場合に、申告監督に至るケースが多いように感じます。なお、申告監督に繋がりやすいケースは以下のような状況です。
- 時間外労働に関して未払いと解釈される可能性がある(休憩時間の拘束、始業前労働、研修)
- 年次有給休暇が消化できない
- 1ヵ月単位の変形労働時間が適正に運用されていない(シフトが頻繁に変わる等)
- セクシャルハラスメント・パワーハラスメント等の発生
- ハラスメント等による、鬱等の精神疾患の発生
- 退職時に退職理由で揉めている等
就業規則等が職員に開示されていない、時間外・休日に関する協定書(いわゆる36協定)等が締結されていない、といった基礎的事項が順守されていない事業所の場合、調査がより詳細な内容となることもあります。
また、時間外労働が正確に計算されているかどうか、という部分は大きな調査項目の1つです。「タイムカード」と残業として支払われている「時間外労働の時間数」に相違がある場合や、時間外手当として支給されている額が低すぎる(給与に比べて単価が低すぎる)場合は、遡っての支払いを求められる事になりますので、留意が必要です。割増賃金を支払う際に、割増賃金の計算基礎から除くことが出来る手当は限られており(家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当・臨時に支払われた手当・1ヵ月を超える期間ごとに支払われる手当)、近時物価高の影響を受けたインフレ手当等による月給支給を上げた場合、割増賃金の単価に含める必要があります。なお、臨時に支払われた手当とは傷病見舞金や結婚祝い金等、支給事由の発生が不確定であり、かつ稀に発生するものです。例えば、コロナ対応(病棟)を行った看護師に対して手当を支給する場合、例えばその病棟に1日勤務した場合に一定額を支給する、といった支給要件が明確な場合は、その手当も計算単価に含める必要があります。
(2)年金事務所の調査
近時、年金事務所による調査も増えており、特に直近においては法改正による短時間労働者の社会保険適用拡大(100名以上の会社)に伴うパート・アルバイトの社会保険加入の調査多かったようです。ただ、小規模医院の場合もパート・アルバイトが社会保険に加入しないといけない労働時間を働いていないか、という点は必ず調査を行う点ですので、ご注意ください。
更に、近時に多くなってきたのは「年末年始手当」に関する調査です。多くの医療機関(もしくは介護施設含む)において、年末年始に勤務した職員に対して、出勤1日に対して手当〇〇千円を支給、という年末年始手当は数多く見ますが、これは「年3回以下支給」されるものとして「賞与」該当し、賞与支払届の提出を行うよう、指導を受けることが直近で続出しています。この場合、社会保険料を職員本人からは引いていないケースが殆どだと思いますので、今後の上記手当の支給の取り扱いについては見直しが必要となるでしょう。
石井 洋(いしい ひろし)
M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。