第3回 「失敗しててもいいじゃないか」~ 接遇とコミュニケーションが動き出すとき
今回は、あるスタッフの一言から始まった現場の変化をたどっていきます。
そんなある日、中途採用で入ってきたスタッフが、いつものように申し送りの場で、 「患者Tさんはどう感じているんでしょうね?」と一言つぶやきました。 実は前回紹介した事例の認知症の患者Tさんの話です。 患者Tさんはいろいろなものを持って帰ってくる「困った人」というレッテルを貼られていました。他の部屋に入り、別の患者さんの持ち物(タオル)を持ってきたという報告を申し送りでしたのです。
その一言にハッとした師長は、まずこう問いかけました。
師長「どうして、そう考えたの?」
看護師N「いつもきれいなものや可愛いものを持ってくるのに、今日はどうしてタオルなのかな?と思って・・・」
最初は、他のスタッフも戸惑っていましたが、いつもの患者Tさんの様子等、話をして、 自然の流れで相談員の方が話をしてみようということになったそうです。 たまたまお見舞いに来ていた次女さんも含めて話をしていく中で、 「さみしい」「飾りたい」というような言葉が出てきたそうです。 タオルは「汚いね~洗ってきて」と次女さんは渡されたようで、「お母さんのものじゃなかったので、尋ねてみようと思っていました」といわれ、「盗ってきた」という認識がないことが分かったということでした。
◆不思議な変化が・・・
このことで、師長は、ミーティングの時や申し送りの時に出てきた話題に対し、 「それは(~こう~)でしょ」「(~こう~)したらいいわよ」と自分が話をするのをやめました。師長が話をしないので、最初はスタッフも戸惑っていたようです。
司会はするけれど、意見は言わない・・・代わりに、「どうしてそう考えたの?」「やってみてどう感じた?」ということを問いかけるようにしました。
「間違っていたらどうしよう」「評価が下がるのではないか」・・・と、そんな戸惑いを感じ取った師長は、「うまくいかなかったとしても、試してみてもいいんじゃない?」 「うまくいかなかったら、また一緒に考えよう」と言葉を添えるようになりました。
すると少しずつではありますが、変化が見え始めました。 小さな工夫が共有されるようになり、対応の理由が語られるようになり、 「次はこうしてみたい」という言葉が出てくるようになりました。
ここで勘違いしてほしくないのですが、失敗しなくなったわけではありません。 むしろ、想定外のことも増えました。 しかし、それを「問題」として切り捨てるのではなく、「学び」として扱う空気が生まれていったのです。
ただし、ここでいう「失敗してもいい」とは、何でも許されるという意味ではありません。
次回は、その線引きと、管理職に求められる役割について考えていきます。

長 幸美(ちょう ゆきみ)
(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。
