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HOSPITALITY 〜長先生の接遇レッスン〜 VOL.72「“思い込み”が接遇を変える?~アンコンシャスバイアスに気付くクリニックづくり~」

 皆さんは「アンコンシャスバイアス」という言葉をご存じでしょうか。 
 直訳すると「無意識の思い込み」となります。性別や年齢、職業や外見などに基づいて、人を「こうに違いない」と判断してしまうことを指します。悪気がない分、自分では気づきにくく、相手を不快にさせたり、信頼を損ねたりする原因となります。

 男女共同参画局が令和4年度に実施した調査研究によれば、性別に基づく思い込みは、家庭や職場のさまざまな場面で無意識に現れ、人間関係や業務の質に影響を与えることが分かっています。

■患者さん対応での思い込み

白衣を着た男性が病室に来ると、患者さんやそのご家族は「医師である」と思いがちです。しかし、その人は看護師かもしれないし、検査技師かもしれません。 これは患者さんが持つアンコンシャスバイアスであり、経験やイメージから無意識に白衣を着た男性は医師だと思い込んでいるのです。

例えば・・・

・性別による役割決め
⇒ 「育児の相談は奥さまに」「治療の意思決定はご主人に

・年齢による先入観
⇒ 「高齢だから聞いても理解できないだろう」

・外見や職業による決めつけ
⇒ 「若いから生活習慣病はないはず」

 こうした思い込みは、患者さんの安心感を損ねるだけでなく、誤解や診療の不備につながりかねません。悪気がないからこそ、患者さんに与える影響は大きくなることも考えられます。

■スタッフ同士での思い込み

アンコンシャスバイアスは、職場の人間関係にも影響します。

例えば・・・

・「男性職員だから力仕事をするべき」

・「若いからまだ責任ある仕事は任せられない」

・「ベテランだから新しいシステムは苦手だろう」

・「事務だから医療のことは分からないはず」

 

こうした固定観念は、不公平感ややる気の低下を招き、チームの協力体制を弱めてしまいます。

■事務長ができる3つのサポート

こういった現場で、本人が気づかない

  • 気づきを促す

「誰もが無意識の思い込みを持っている」という前提をスタッフに伝えることが必要になってきます。

例えば、朝礼の時などに、ひとり一人が発言する時間を設け、人となりが理解できるような場を作ったり、定期的な振り返りや声かけで意識化を促したりすることも一つの手ではないでしょうか。

  • 確認の姿勢を習慣化する

思い込みで判断せず、必ず当事者に確認する癖をつけましょう。
問い詰めたり非難したりするのではなく、事実を事実として把握し、問題があればどう対応したほうが良かったのかということを一緒に考える習慣を作ることが大事だと思います。

  • 事例を共有する文化をつくる

「こんな思い込みに気づいた」という経験を院内でちょっと話し合える場を作ってみるのはどうでしょうか?  この場合、事務長が率先して場を整えることが大切です。

 

■小さなレッスンから始めてみましょう。

ミーティングの中で「性別や年齢を入れ替えたら対応は変わるか?」と考えてみる

ことも大事になると思います。また、チェックリストを活用し「決めつけていないか」をセルフチェックしてみるのもよいのではないでしょうか?

■まとめ

アンコンシャスバイアスは「誰にでもあるもの」です。

「気づき」「確認」「共有」をスタッフに働きかけることで、クリニック全体の信頼性を高めることもできるのではないかと考えています。

アンコンシャスバイアス気づきチェックリスト

~「決めつけていないか?」を確認するための10項目~

【患者対応編】

□ 性別によって相談内容や意思決定者を変えていないか?

例:「育児の話は母親に」「治療方針は父親に」

□ 年齢によって理解力や判断力を決めつけていないか?

例:「高齢だから説明しても分からないだろう」

□ 外見や服装で生活習慣や健康状態を判断していないか?

例:「若いから生活習慣病はないはず」

□ 職業や肩書きで話す内容や態度を変えていないか?

例:「会社員だから忙しくて通院できないだろう」

□ 家族構成や関係性を勝手に想像して対応していないか?

例:「一緒に来ているから夫婦だろう」

【スタッフ対応編】

□ 性別によって業務の割り振りを変えていないか?

例:「男性だから力仕事を任せよう」

□ 年齢によって責任ある仕事を任せるかどうか決めていないか?

例:「若いからまだ早い」「ベテランだから新しいことは苦手」

□ 職種によって意見の価値を変えていないか?

例:「事務だから医療のことは分からないはず」

□ 学歴や経歴で能力を決めつけていないか?

例:「専門学校卒だから○○は難しいだろう」

□ 過去の印象で現在の対応を決めていないか?

例:「前にミスしたから今回も心配だ」

長 幸美(ちょう ゆきみ)

(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。