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HOSPITALITY 〜長先生の接遇レッスン〜 VOL.71「制服は「経費」ではなく「戦略」~装いを整えることが、組織とスタッフを守る第一歩~①」

 近年、医療機関においてもカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が深刻な課題となっています。暴言や過度な要求、スタッフへの威圧的な態度など、対応に苦慮する場面が増えているのではないでしょうか。
 このような事案において、医療の専門性やコミュニケーション力と並んで、「制服」や「身だしなみ」が果たす役割は、実は非常に大きな意味を持っています。


■ 制服が持つ3つの意味

クリニックにおける制服は、単なる“業務用の衣類”ではありません。制服には以下のような3つの重要な意味があります。

1. 専門性・信頼感の表現

白衣やスクラブ、事務制服は、患者さんに「ここは医療機関である」という安心感を与えます。特に受付スタッフは、最初に患者と接する「クリニックの顔」。その装いは、信頼を築くための第一歩です。

2. 職務と立場を可視化する

制服があることで、「この人は職員である」「この人は医療従事者である」という区別が明確になり、患者との立場の線引きにもつながります。これはカスハラ場面で「対等な関係性」を崩さないための一助となります。

3. 組織の一体感・背筋を伸ばす効果

統一された制服は、職場の一体感を生み、スタッフのプロ意識を高めます。「制服に袖を通す」ことで自然と身が引き締まり、言動にも責任が伴うようになります。


■ 制服とカスハラ対策の関係

カスハラの多くは、「相手を軽視する」――つまり、“言いやすい存在”だと見なすところから始まります。
服装がだらしなかったり、名札がついていなかったりすると、「この人は私の言いなりになりそう」と誤った印象を与え、強く出られてしまう危険性があります。

一方で、清潔感があり、きちんと制服を着用し、名札を明示しているスタッフに対しては、患者も無意識に一定の距離感を保ち、無理を言いにくいという印象をもつことが報告されています。

私が参加したある医療安全セミナー(登壇者は元警察官と弁護士)では、「折り目正しく、背筋をしゃんと伸ばして歩く人は、クレーマーに狙われにくい」という話がありました。制服や姿勢は、“自分を守る鎧”になるということを、あらためて実感した瞬間でした。

 次回は、制服を“戦略的に活用する”ための実践ポイントと、制服が組織文化や経営判断にどのように関わってくるのかを、より具体的にご紹介します。

長 幸美(ちょう ゆきみ)

(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。