最近、「新患の数が減ってきた」「患者さんの動きが読めない」と感じることはありませんか? そんなときに大切なのは、「なぜ、この地域で私たちのクリニックが選ばれているのか?」という“理由”を、スタッフ全員で改めて見つめ直してみることです。
地域に根ざした医療を目指す私たちにとって、「選ばれるクリニック」になるための鍵は何でしょうか?
それは、特別な広告や最新設備だけではありません。
患者さんが「また来たい」と思う理由は、日々のさりげない一言や気づかいの中にあるのです――。
◆ “選ばれる”理由は、診療科や設備だけではない
もちろん、専門性や技術も大切です。
でも、患者さんが「また来たい」「人に勧めたい」と思う理由は、もっと日常的なところにあります。
たとえば、ご家族が病気になったとき、どんな医療機関にかかりたいと思いますか?
「早く診てもらえるところ」「薬だけすぐに出してくれるところ」…そんな希望もあるでしょう。でも一方で、「いつも空いている病院だと、逆に心配になる」という声も耳にします。
実際に「この医療機関を選ぶ理由」をアンケートすると、「先生が素晴らしい」「専門の先生がいるから」といった理由に加えて、「受付が丁寧だった」「スタッフがやさしく声をかけてくれた」といった、“心のこもった対応”が多く挙がります。
- 受付の職員が笑顔で迎えてくれたこと
- 先生がじっくり話を聞いてくれたこと
- 看護師さんの気づかいが安心につながったこと
こうした当たり前のようで難しいことが実現されているクリニックでは、小さな安心と共感が患者さんの心に残り、「あのクリニックは良かったよ」と、自然に口コミが広がっていきます。
◆ スタッフの「気づき」が、魅力をつくる
クリニックの立地や地域の環境によって、患者層もニーズも変わってきます。
たとえば、高齢者が多い地域では、歩きやすい動線や座りやすい椅子の設置が求められます。
子育て世代が多い地域では、待ち時間短縮や「鼻水だけでも診てくれる安心感」などが重視されます。
つまり、地域のニーズは診療科に関係なく存在し、それに「気づき」「応える」ことが信頼につながっていくのです。
- 杖をついた方にそっとドアを開けてあげる
- 熱がある方に早めに声をかけ、看護師につなぐ
- 混雑時に「少しお待たせしますが、順番にご案内します」と一言添える
こうした“気づきの行動”は、マニュアルではなく、スタッフ一人ひとりのまなざしから生まれるもの。これこそが、クリニックの魅力をつくる土台になります。
◆ 日々の改善こそが、選ばれる理由になる
地域の方々の暮らしに寄り添い、ちょっとした工夫を積み重ねることも選ばれる理由の一つです。
- 雨の日のタオルの設置
- お迎えの車を待つ椅子の設置
- 会計時に荷物が置ける小さな台
- 移動が困難な方への受付側からの声かけ
こうしたちょっとした改善が、「ここに来てよかった」と思っていただける瞬間を生み出します。
◆ 最後に:「近くにあってよかった」と思われる存在へ
「またここに来よう」「困ったら、あそこに相談しよう」――
そう思っていただけるクリニックになるために、私たちにできることはたくさんあります。
私たちの役割は、病気を診ることだけではありません。
患者さんの「不安」を「安心」に変えていくこと。
「何かあったら、まずあのクリニックに相談しよう」と思っていただける信頼を築いていくこと。
「選ばれる理由」は、すでに私たちの中にあります。
それは特別なことではなく、日々のふるまいと積み重ね。
“地域で信頼される医療”は、スタッフ一人ひとりの気づきとやさしさから始まっているのです。

長 幸美(ちょう ゆきみ)
(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。
