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「カスタマーハラスメント対策の義務化と介護現場の対応について」

「利用者からの暴力や暴言は仕方ない」そうした精神論で現場が耐え続けてきた時代が、制度的に終わりを迎えようとしています。2025年6月、事業者にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を義務付ける改正労働施策総合推進法が成立し、2026年10月1日より施行されます。労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象であり、中小規模の介護事業所も例外ではありません。

介護現場におけるカスハラの実態は深刻です。UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの調査では、介護職の約4人に1人が直近2年以内に利用者や家族から何らかのハラスメントを受けたと回答しています。内訳は暴言などの精神的暴力が最多で、身体的暴力やセクハラがそれに続きます。特に注目すべきはケアマネジャーの被害状況で、加害者として利用者よりも家族の割合が高い点です。また、被害を相談しても65.5%が「状況が変わらない」と回答しており、報告体制の脆弱さと経営層の関与不足が浮き彫りになっています。

なお、法施行前であっても、対策を怠り職員が心身の不調をきたした場合、事業者は安全配慮義務違反として法的責任を問われます。義務化を待つのではなく、今から対応を進めておくことが求められます。具体的には、カスハラの判断基準と対応手順の明文化、職員が報告しやすい体制の整備が必要です。

そして何より重要なのは、経営層が「職員を守る」という姿勢を明確に示すことです。介護事業といえども、職員の安全と尊厳を脅かす利用者・家族との契約関係を見直す、すなわち「利用者を選ぶ」という経営判断は、今や正当な選択肢として認識されるべき時代になっています。職員を守るためにやむを得ず利用者との契約を見直した事業所に対して、担当ケアマネジャーがネガティブな印象を持つことがないよう、地域全体でカスハラ問題への理解を深めていくことも、今後の課題として考えておく必要があります。

職員を守る組織は、職員が安心して働ける職場をつくり、離職を防ぎ、結果としてサービスの質を高めます。カスハラ対策は守りの施策ではなく、施設の持続可能な経営と質の高いケアを両立させるための、積極的な経営戦略として位置づけていく必要があります。

 

原田 和将

一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。