こんにちは。M&Cパートナーコンサルティングの村上佳子です。
前回は、医療機関でのAI利用を、まず3つに分けて考えましょうというお話をしました。
今回は、その中でも比較的始めやすい「生成AIによる院内業務の効率化」について整理します。
生成AIは、文章を作る、要約する、言い換える、表にする、といった作業が得意です。医療機関の事務部門では、実はかなり相性がよい業務があります。
たとえば、院内掲示文の作成です。
「発熱症状のある方は受付にお申し出ください」
「マイナ保険証をご利用ください」
「面会時間の変更について」
こういった案内文は、内容自体は決まっていても、患者さんに伝わりやすい表現にするのが意外と難しいものです。
生成AIを使えば、「高齢の患者さんにもわかりやすく」「やわらかい表現で」「短く」「院内掲示向けに」といった指示を出すことで、たたき台を作ることができます。
研修資料にも使えます。
医療安全、個人情報保護、サイバーセキュリティ、接遇、感染対策など、職員研修で説明する内容はたくさんあります。専門的な資料をそのまま配っても、現場にはなかなか伝わりません。
そういうときに、生成AIで「新人職員向けに説明して」「受付スタッフ向けに言い換えて」「チェックリストにして」と依頼すると、現場に伝わりやすい形に直すことができます。
会議メモの整理にも向いています。
ただし、ここで注意が必要です。
会議メモに患者名や具体的な個人情報が入っている場合、そのまま外部の生成AIに貼り付けてはいけません。AI利用で一番怖いのは、「便利だから」と思って、つい情報を入れてしまうことです。
生成AIを使うときの基本ルールは、まずこれです。
患者情報を入れない。
職員の個人情報を入れない。
取引先との機密情報を入れない。
この3つを守るだけでも、かなりリスクを下げられます。
では、生成AIに任せてはいけないことは何でしょうか。
まず、医療判断そのものです。
「この症状なら何の病気ですか」
「この検査値ならどう診断しますか」
「この薬を出してよいですか」
こうした判断は、生成AIに任せるものではありません。医師や医療職が、責任を持って判断すべき領域です。
次に、AIが作った文章を確認せずに使うことです。
生成AIは、もっともらしい文章を作るのが得意です。しかし、正しいとは限りません。医療制度、診療報酬、薬機法、個人情報保護、院内ルールなど、細かい条件があるものについては、誤った内容を自然な文章で出してくることがあります。
ですから、生成AIを使うときは、必ず「たたき台」として扱ってください。
特に、患者さんに渡す説明文、ホームページに掲載する文章、行政に提出する文書、契約書、同意書、診断書や証明書に関わる文書は、人の確認が必須です。
事務長さんが院内ルールを作るなら、最初は次のような区分がわかりやすいです。
まず、使ってよい業務。
院内掲示文、研修資料のたたき台、議事録の整形、一般的な説明文の言い換え、マニュアルの表現整理。
次に、注意して使う業務。
患者向け説明資料、ホームページ原稿、行政提出資料、規程類のたたき台。
最後に、原則として職員判断で使わせない業務。
診断・治療判断、処方判断、患者情報を含むカルテ要約、診療情報提供書、退院サマリー、診断書などです。
生成AIは、うまく使えば医療機関の事務負担を大きく軽くしてくれます。
でも、使い方を間違えると、情報漏えい、誤情報、責任の所在不明という問題が起きます。
大切なのは、AIに仕事を丸投げすることではありません。
AIに下書きをさせて、人が責任を持って仕上げる。
この考え方を、院内で共有してください。

