今月は、医療保険と介護保険の給付調整について解説いたします。
1.給付調整を理解する基本視点
介護保険施設の入所者に対する医療は、施設サービス費等に包括される部分と、一定の要件のもとで医療保険から別途給付される部分に分かれます。判断に当たっては、介護老人保健施設(老健)、特別養護老人ホーム(特養)、介護医療院、短期入所サービス等の施設・サービス類型を確認した上で、診療を行った医師、診療内容、専門性、緊急性および看取りの状況を順に確認することが重要です。
2.老健入所者に対する医療保険の取扱い
老健では、施設の医師が提供する日常的な診療、投薬、検査、処置等の多くが介護保険の施設サービス費等に包括されています。施設類型に応じた特別療養費・特別診療費等の取扱いにも注意が必要です。介護保険の給付に含まれる診療を他の保険医療機関が実施した場合、当該医療機関は、原則として同一の診療に係る費用を医療保険へ重ねて請求できません。一方、老健での対応が困難な専門的診療については、介護調整告示および通知の別紙1に基づき、医療保険で算定できる場合があります。
- 老健入所者が医療保険の給付を受ける場合は、併設保険医療機関と、それ以外の保険医療機関で算定範囲が異なる項目があります。
- 短期入所療養介護中に緊急その他の理由で医療保険の療養の給付を受ける場合、医療保険請求は「入院外」のレセプトを用い、患者の一部負担も通常の外来扱いです。
- 老健入所者に対する在宅療養指導管理料等は、項目ごとに算定可否が異なります。管理料本体が算定できない場合であっても、介護調整告示により材料加算、薬剤料または特定保険医療材料料等の算定が認められることがあるため、通知の別紙1の該当欄と注記を項目ごとに確認する必要があります。
- 老健入所者について人工腎臓の「1」から「3」までのいずれかを算定する場合(注13の加算を算定する場合を含む)、透析液、血液凝固阻止剤、生理食塩水、エリスロポエチン、ダルベポエチン、エポエチンベータペゴルおよびHIF-PH阻害剤の費用は所定点数に含まれ、別に算定できません。HIF-PH阻害剤は、原則として人工腎臓を算定する保険医療機関で院内処方します。
- 施設から外部医療機関へ受診させる際は、診療情報、依頼理由、施設内での対応が困難な理由を明確にし、重複請求を防ぐ運用が必要です。
○ 「医療保険と介護保険の給付調整に関する留意事項及び医療保険と介護保険の相互に関連する事項等について」の一部改正について(老老発0327第2号・保医発0327第4号、令和8年3月27日。令和8年6月1日適用)
3.特養入所者に対する医療保険の取扱い
特養では、配置医師が通常の範囲で行う診療については、初診料、再診料、外来診療料、往診料等を算定できません。通知上、併設医療機関の医師も配置医師に含まれる点に注意が必要です。また、医学管理料や在宅医療等には個別の算定制限があります。一方、通知上算定対象外とされていない薬剤料、検査料、処置料、特定保険医療材料料等については、診療を行った医師、実施日、診療内容および通知上の要件を確認した上で算定できる場合があります。
○ 「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」の一部改正について(保医発0327第5号、令和8年3月27日。令和8年6月1日適用)
4.令和8年度診療報酬改定におけるポイント
特養等の入所者を配置医師以外の保険医が診療する場合について、①患者の傷病が配置医師の専門外にわたり、入所者または家族等の求め等を踏まえた医学的判断による配置医師の求めがある場合、または②緊急時に施設管理者の求めに応じて診療した場合には、所定の初・再診料、往診料、検査料、処置料等を算定できることが明確化されています。
また、協力対象施設入所者入院加算および介護保険施設等連携往診加算では、協力医療機関と介護保険施設等とのカンファレンスについて、ICTを活用して診療情報および急変時の対応方針等を常時確認できる体制がある場合は年1回以上、ICTによる常時確認体制がない場合は原則年3回以上とされました。一定の入院受入れまたは往診実績があり、その都度必要な情報共有を行っている場合には、年1回以上とする取扱いがあります。実績の件数など、各加算の施設基準を確認してください。
訪問看護関係では、新たな点数区分を含む給付調整が通知に反映されています。算定に当たっては、末期の悪性腫瘍、精神科訪問看護の対象要件、短期入所サービス利用前30日以内の訪問・算定実績、介護保険の各種加算との重複状況を確認する必要があります。なお、短期入所生活介護等の利用開始後30日までという算定期間は、通知に定める精神科訪問看護の該当項目に係る条件です。すべての訪問看護に共通する期間制限ではないため、項目ごとの要件を確認してください。
さらに、令和6年度介護報酬改定により、特養、老健、介護医療院等には、急変時の常時の相談対応および診療対応、ならびに入院が必要と判断された場合の原則的な受入体制を確保した協力医療機関を定めることが義務付けられています。令和9年3月31日までは経過措置により努力義務とされており、経過措置期間中に実効性のある連携体制を整備する必要があります。
○ 厚生労働省 令和8年度診療報酬改定説明資料(協力医療機関が施設と行うカンファレンス等に係る施設基準の見直し)
○ 厚生労働省 協力医療機関との連携の状況(協力医療機関に関する義務化と経過措置)
5.まとめ
老健と特養では、医療保険の取扱いを判断する出発点が異なります。老健は施設内医療が広く介護保険に包括されるため、外部医療機関の請求は「施設で提供が困難な専門的医療か」「介護調整告示で認められた項目か」を中心に確認します。一方、特養は「配置医師か配置医師以外の保険医か」「専門外または緊急か」「末期の悪性腫瘍・看取りの特例に該当するか」が重要です。令和8年度改定では、配置医師以外の保険医が診療できる場面、協力医療機関との情報連携、訪問看護に関する給付調整等が更新されました。施設と医療機関が診療情報、急変時対応方針、請求区分を平時から共有し、診療行為ごとに根拠通知を照合する運用が、返戻・査定と二重給付の防止につながります。
執筆者紹介
能見 将志(のうみ まさし)
(株)M&Cパートナーコンサルティング コンサルタント
診療情報管理士。中小規模の病院に18年間勤務(最終経歴は医事課長)。診療報酬改定、病棟再編等を担当。診療情報管理室の立ち上げからデータ提出加算の指導まで行う。
