こんにちは。M&Cパートナーコンサルティングのパートナーコンサルタント、長幸美です。
ここまで、カスハラの判断、初動対応、応招義務、記録の残し方についてお話ししてきました。
最終回では、実際にクリニック内の仕組みとして、何を整えればよいのかをまとめます。
カスハラ対策というと、何十ページもあるマニュアルを作らなければならないと思われるかもしれません。
でも、最初から完璧なものを作る必要はありません。
大切なのは、現場で本当に使えることです。
最初に院内方針を決める
まず、院長名で基本方針を示します。
内容は、難しいものでなくて構いません。
当院は、患者さんやご家族からのご意見やご要望には、誠実に対応します。
一方で、職員への暴力、脅迫、侮辱、長時間の拘束など、社会通念を超えた行為には組織として対応し、職員の安全を守ります。
この方針は、就業規則や院内規程に盛り込むだけでなく、職員全員に説明してください。
厚生労働省の指針でも、カスハラには毅然と対応して職員を保護するという方針を明確にし、具体的な対処方法とともに周知することが求められています。
クリニックに必要な「一枚の対応表」
分厚いマニュアルとは別に、受付や診察室ですぐ確認できる一枚の対応表を作ることをおすすめします。
例えば、対応を次の3段階に分けます。
レベル1:通常の苦情・要望
内容を確認し、事実関係を調べて回答します。改善すべき点があれば、院内で共有します。
レベル2:暴言、威圧、長時間の拘束
一人で対応せず、責任者に交代します。行為をやめるよう警告し、対応時間を区切ります。必要に応じて録音や対応記録を残します。
レベル3:暴力、具体的な脅迫、不退去
職員と他の患者さんを退避させ、院長または責任者へ直ちに連絡します。危険が切迫している場合は警察に通報します。
判断に迷った場合は、上のレベルとして対応して構いません。
誰が管理者対応をするのか決める
院長が診療中の場合、誰が一次的に判断するのかを決めます。
副院長、看護師長、事務責任者などがいれば、その方を指定します。
管理職が院長しかいない場合は、
「受付職員が院長を呼ぶ条件」
「院長がすぐ対応できない場合に伝える言葉」
「診療終了後に院長が折り返す事案」
を決めてください。
「責任者を呼んでよいか職員が迷う」状態をなくすことが重要です。
相談窓口は小規模でも設置できます
大きな専門窓口を置く必要はありません。
院長や事務責任者を相談窓口として定め、職員に周知する方法でも構いません。
ただし、相談を受けた後に、
「あなたの接遇にも問題があったのでは」
「患者さんも不安だったのでしょう」
「次から気を付けて」
と終わらせないでください。
事実確認、被害職員への配慮、再発防止まで行うことが求められます。相談した職員のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益な扱いをしないことも必要です。
研修は「説明」だけでなく練習する
年に一度、規程を読み上げるだけでは、実際の場面では動けません。
例えば、次の場面を使ってロールプレイを行います。
「待ち時間が長いと受付で怒鳴られた」
「電話で職員の名前と住所を聞かれた」
「診察室から帰らないと言われた」
「スマートフォンを向けられ、撮影された」
職員役、患者役、管理者役に分かれ、
「どの言葉で警告するか」
「どの段階で交代するか」
「誰が他の患者さんを誘導するか」
を確認します。
厚生労働省も、医療従事者と管理者の双方が学べる暴力・ハラスメント対策教材を公開し、各医療機関が組織的な対応策を講じるための研修や個人学習への活用を促しています。(厚生労働省)
カスハラ対策は、患者さんのためでもあります
カスハラが起きると、対応している職員だけでなく、待合室の患者さん、診療中の医師や看護師、電話をかけている他の患者さんにも影響します。
一人の方への対応によって、クリニック全体の診療が止まることもあります。
だからこそ、カスハラ対策は「患者さんに厳しくする取組」ではありません。
正当なご意見にはきちんと耳を傾ける。
必要な医療はできる限り提供する。
一方で、暴力や威圧的な言動を放置しない。
この線引きを院長と職員が共有することで、職員が安心して働けるだけでなく、他の患者さんにも安定した医療を提供できます。
2026年10月の義務化を、規程を作るだけの対応で終わらせないでください。
「職員が困ったとき、誰が、いつ、どのように対応を引き取るのか」
まずは、そこから院内で話し合ってみてください。

