こんにちは。M&Cパートナーコンサルティングのパートナーコンサルタント、長幸美です。
今回から6回にわたって、医療機関、特に入院施設のないクリニックにおけるカスタマーハラスメント対策についてお話しします。
「カスハラ対策」と聞くと、皆さんはどのような場面を思い浮かべますか。
受付で大声を出す患者さん、電話をなかなか切ってくれないご家族、職員を名指しで責め続ける方など、すでに思い当たる場面があるのではないでしょうか。
これまでは、こうした場面に対して、
「医療機関だから仕方がない」
「患者さんは不安なのだから、職員が受け止めるべき」
「接遇を改善すれば何とかなる」
と考えられることも少なくありませんでした。
でも、これからはそれだけでは不十分です。
2026年10月1日から、患者さんやご家族などによるカスタマーハラスメントを防止するための措置が、事業主の義務になります。医療法人だけでなく、個人開設のクリニックを含むすべての事業主が対象です。(厚生労働省)
クリニックでは、職員が逃げ場を失いやすい
入院施設のある病院であれば、医療安全部門、患者相談窓口、警備員、事務部門などが対応に入れる場合があります。
一方、クリニックでは、受付職員が電話を受け、そのまま窓口でも対応し、院長が診療中のため誰にも相談できない、ということが起こりがちです。
患者さんから、
「責任者を出せ」
「今すぐ院長と話をさせろ」
「謝るまで帰らない」
と言われても、管理者に交代する仕組みが決まっていなければ、受付職員がその場で何とか収めようとします。
職員本人は「自分の対応が悪かったのかもしれない」と考え、誰にも相談せずに抱え込んでしまうこともあります。
これは個人の接遇能力の問題ではありません。組織として、職員を守る仕組みができているかという問題です。
義務化されるのは「相談窓口」だけではありません
厚生労働省の指針では、事業主に対して、カスハラには毅然と対応して労働者を保護するという方針を明確にすること、対応方法をあらかじめ定めること、相談窓口を設けることなどが求められています。
さらに、発生後の事実確認、被害職員への配慮、再発防止、相談者のプライバシー保護、悪質な事案への対処方針まで整えておかなければなりません。
「できるだけ職員一人で対応させない」「犯罪に当たり得る場合は警察に通報する」といった対応も例示されています。
つまり、院内にポスターを貼り、「困ったら院長に相談してください」と伝えるだけでは足りないのです。
院長が最初に伝えるべきこと
私は、クリニックのカスハラ対策で最初に必要なのは、院長から職員へのメッセージだと思っています。
例えば、次のように伝えてください。
患者さんからの正当なご意見には、きちんと対応します。
ただし、暴言や威圧的な言動まで職員が我慢する必要はありません。
困ったときは一人で解決しようとせず、すぐに院長や責任者を呼んでください。
この言葉があるだけでも、職員の相談のしやすさは変わります。
反対に、院長がいつも、
「そのくらいうまく対応してよ」
「患者さんを怒らせた受付にも問題がある」
「うちは地域の医療機関だから断れない」
と言っていると、どれだけ立派なマニュアルを作っても、職員は相談できません。
厚生労働省も、医療現場の暴力・ハラスメント対策を、医療従事者の離職防止や勤務環境改善の課題として位置付けています。(厚生労働省)
カスハラ対策は、患者さんを排除するためのものではありません。
職員が安心して働き、必要な医療を安定して提供するための仕組みです。
次回は、患者さんからの「正当な苦情」と「カスタマーハラスメント」を、どのように区別すればよいのかを考えていきます。

