2025年、欧州では記録的な熱波により2千人を超える死者が出、米国では1億8千万人に熱波警報が発令されました。かつて「例外的な気象現象」とされていた熱波は、今や毎年繰り返される現実の脅威となっています。そしてその犠牲者の圧倒的多数が、独居の高齢者であることが繰り返し明らかになっています。
この問題に対し、欧州の都市では具体的な対策が進んでいます。パリでは独居高齢者の名簿を整備して安否確認を行う「見守り登録」の仕組みを導入し、バルセロナでは涼しい空間に避難できる「気候シェルター」を地域に整備しています。これらの取り組みに共通するのは、「誰が、どこで、なぜ危険にさらされるのか」というデータに基づいてピンポイントで対策を設計しているという点です。
日本においても、高齢者の熱中症リスクは年々深刻化しています。高齢者は体温調節機能が低下しており、自覚症状が出にくいため発見が遅れやすい。特に独居高齢者は異変を察知する人が周囲にいないという構造的な脆弱性を抱えています。パリの見守り登録は、日本の民生委員や地域包括支援センターによる見守り活動と親和性が高く、地域の実情に応じた応用が十分可能です。
介護事業所は、こうした地域の熱中症対策において重要な役割を担えるポジションにあります。施設利用者への対策はもちろん、在宅で暮らす地域の高齢者の状態把握や緊急時の受け入れ体制の整備など、施設が地域の安全網の一部として機能することへの期待は今後さらに高まっていきます。
気候変動への対応は、温室効果ガスの削減という長期的な取り組みと同時に、今まさに起きている熱波から高齢者をどう守るかという「適応策」の両輪で考える必要があります。自施設の熱中症対策を点検しながら、地域全体の見守り体制にどう貢献できるかを考える視点を持っていただきたいと思います。
原田 和将
一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。
