2024年4月、すべての介護事業者に対して業務継続計画(BCP)の策定が完全義務化されました。さらに2025年4月からは未策定の場合に介護報酬が減算される段階に入っており、制度上はBCP対応が完結していなければならない状況です。問題は、計画書が存在するかどうかではありません。それが実際に機能するかどうかです。
義務化後に行われた調査では、介護職員の約2割がBCP策定の義務化自体を知らないと回答し、「策定している」と認識していた職員は6割程度にとどまりました。計画書は存在していても、現場のリーダーや職員に浸透していないという実態が浮き彫りになっています。厚労省が求めるBCPの要件には策定だけでなく、職員への周知と定期的な訓練の実施までが含まれています。「書類を作って終わり」では、BCPとして機能しているとは言えません。
2024年1月の能登半島地震は、この問題を具体的な形で突きつけました。被災した介護施設では停電や断水が長期間継続した一方、同じ被災地域の医療機関では停電継続施設がほぼ皆無でした。この差を生んだのは非常用発電設備の有無です。全国調査では自家発電設備をまったく保有しない施設が約半数に上ることも明らかになっています。また、事前に福祉避難所として指定されていた施設のうち実際に開設できたのは1割にも満たず、BCPと現場のリソースの乖離が深刻な機能不全を招きました。
BCPは書類ではなく、設備投資・人的体制・近隣施設との連携がセットになって初めて意味を持ちます。そしてもう一つ見落とされがちな論点が、夜間・少人数体制における現場リーダーの初動判断です。管理者が到着するまでの間、その場にいる最先任者が利用者の安全確保と初動対応の判断を一時的に担う構造になっています。マニュアルを読み解いて即断する力は、訓練なしには身につきません。
BCPの実効性を高めることは、災害時の利用者保護に直結すると同時に、現場リーダーの育成にもつながります。計画書の見直しと併せて、訓練の場をどう設けるかを改めて検討する時機に来ています。
原田 和将
一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。
