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労働契約の締結・更新のタイミングでの労働条件明示事項

今回は、令和6年4月から実施される、労働契約の締結・更新のタイミングでの労働条件明示事項が追加についてお知らせします。

まず、①全ての契約締結時と有期労働契約更新時に将来の配置転換などによって、変わり得る就業場所や業務の範囲を提示することが明示事項に追加されました。就業場所や業務内容が変更する可能性があるお客様(例:複数事業場・複数のサービスがある、又は事業場異動に伴い、業務内容に変更可能性がある場合)は、その変更可能性を事前に提示する必要が生じています。

(以下参照:厚生労働省 モデル労働条件通知書)

この変更の範囲については、当該労働契約の期間中における変更の範囲を指す、ということでQ&Aの回答が出ています。つまり、例えば1年契約の有期の労働契約を締結する職員がいた場合、その締結する1年契約の期間内で変更する可能性がある就業場所・業務を明示する、となります。ただ、正職員の場合、契約期間の定めがないため、雇用期間中に発生しうる、全ての就業場所の変更や業務の変更の範囲については明示を行う必要が出てきます。では、どういった明示の方法があるかというと、

上記のように、会社の定める全ての〇〇、会社の定める全ての業務、といった表記で法律上は足りることになります。しかし、法改正の趣旨は、労使間での認識の食い違いを防止する、聞いていなかった、ということが無いように、という趣旨であることから考えると、一覧表等を横におきながら説明する方がより丁寧かと考えられます。

 

なお、この新しい明示事項を入れた契約書について、ですが、対象となるのは、令和6年4月1日以降に締結される労働契約について適用されるとしています。そのため、既に雇用されていらっしゃる労働者の方に対して、改めて新しい明示ルールに対応した労働条件明示は必要ありません。

 

次に、②実務的に大きい改正として、「無期転換ルールに基づく無期転換申込権が発生する契約の更新時」に無期転換申込機会の明示が必要となりました。これまでは、無期転換申込権が発生しても会社はそれを通知する義務はありませんでしたが、今後は通算5年を超えて後、新たに有期労働契約を締結する際は、“あなたは無期契約に切り替える申込機会を得ました。無期転換後の労働条件は〇〇です”ということを明示する必要があります。(※無期契約になっても正社員化する必要はない事は従前と同様です。労働条件の変更無ということを明示するだけで法的には足ります。)

この法改正は思った以上に実務的な影響が生じると考えています。理由として、これまでそういった機会がなかったパート職員・有期雇用の方が、この申し込み機会があります、ということまで通知されてなお1年契約を選ぶ(無期転換申込権を行使しない)とは考えにくいということです。もっとも影響が考えられる場合としては、例えば定年間近の58歳(仮に定年60歳の会社を想定)の方を新たに1年契約で採用し、それが更新を5回繰り返して63歳で無期転換の権利が発生した場合のようなケースです。このような場合、定年年齢を過ぎた状態で、契約期間の定めが無い無期転換への権利を持つことになります。そして、無期転換権を行使した場合、定年年齢を経過した年齢で契約期間のない雇用契約になる、という事になります。その場合、契約期間満了では退職ということにならなくなるため、①ご本人が自ら退職する場合(自己都合退職)、もしくは会社側が本人の意思によらずに退職させる場合(会社都合の退職)、③休職期間満了といった自動退職の場合、のいずれかに該当しない限りは退職する機会はないことになります。

 そのため、特に定年が近い年齢の方を新たに採用するといった採用がある会社においては、無期転換に変わった年齢に応じて、第2定年を定めておくほうが良いのではないかと考えています。

自社のパートおよび有期雇用の方の年齢構成および通算の契約回数・年数の現状確認を行い、必要な準備をしておくことが必要です。

労務管理_石井氏

石井 洋(いしい ひろし)

M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。