診療報酬専門研究員の能見です。
前回に引き続き、「診療報酬算定のポイント」厚生局の指導等及び医療監視への対応策を説明します。
療養担当規則の第8条、医師法第24条1「診療録の記載及び整備」
療養担当規則第8条に「診療録に療養の給付の担当に関し必要な事項を記載し、これを他の診療録と区別して整備しなければならない。」とあるように保険医は、その責任で必ず記載しなければならない項目が決められています。その中でも重要となるのは、「傷病名」です。保険請求を行なった際、審査側で第一にチェックされるものも「傷病名」です。そこで、療養担当規則以外に、レセプトに記載する上で、守らなければならないルールとして厚生労働省が下記のように定めています。
「傷病名欄」について |
- 傷病名については、原則として「電子情報処理組織の使用による費用の請求に関して厚生労働大臣が定める事項及び方式並びに光ディスク等を用いた費用の請求に関して厚生労働大臣が定める事項、方式及び規格について」別添3に規定する傷病名を用いる。別添3に規定する傷病名と同一の傷病でありながら名称が異なる傷病名については、「傷病名コードの統一の推進について」にとりまとめたので、これを参照し、原則として、傷病名コードに記載されたものを用いる。
- 主傷病、副傷病の順に記載する。主傷病については原則として1つ、副傷病については主なものについて記載することとし、主傷病が複数ある場合は、主傷病と副傷病の間を線で区切るなど、主傷病と副傷病とが区別できるようにする。
- 薬剤料に係る所定単位当たりの薬価が175円以下の薬剤の投与又は使用の原因となった傷病のうち、健胃消化剤、鎮咳剤などの投与又は使用の原因となった傷病など、イに基づき記載した傷病名から判断して、その発症が類推できる傷病については、傷病名を記載する必要はない。ただし、強心剤、糖尿病薬などの投与又は使用の原因となった傷病名についてはこの限りでない。
- 傷病名が4以上ある場合には、「傷病名」欄の余白に順次番号を付し、傷病名を記載し、又は当該欄に記載しきれない場合は、「摘要」欄に順次番号を付して記載し、最終行の下に実線を引いてその他の記載事項と区別し、記載した傷病名に対応する診療開始日を、傷病名の右側(傷病名の右側に余白がない場合は、当該傷病名の次の行の行末)に記載する。
- 心身医学療法を算定する場合にあっては、例えば「胃潰瘍(心身症)」のように、心身症による当該身体的傷病の次に「(心身症)」と記載する。
平成30年度に実施した個別指導において保険医療機関(医科)に改善を求めた傷病名の記載に関する主な指摘事項として下記表のような内容があります。
個別指導では、レセプトに記載されている傷病名と診療録に記載されている傷病名を照らし合わせ、整合性がない場合にも、改善が求められるケースも増えています。
その他、転帰が適正に行われず、20~30も傷病名が診療録及びレセプトへ残っている場合は、医師が傷病名の付与に関わっていない(医事課が傷病名を決定し記載している)と判断され診療録以外の日常の流れまでを確認し指摘を受けることもあります。
平成30年度に実施した個別指導において保険医療機関(医科)に改善を求めた主な指摘事項(傷病名についてのみ抜粋)
(1)傷病名の記載又は入力について、次の不適切な例が認められたので改めるこ と。 |
① 診療録と診療報酬明細書の記載が一致しない。 ② 「傷病名」欄への記載は、1行に1傷病名を記載すること。 ③ 傷病名を診療録の傷病名欄から削除している。当該傷病に対する診療が終了した場合には、傷病名を削除するのではなく、転帰を記載すること。 ④ 請求事務担当者が転帰を記載している。傷病名は、必ず医師が記載すること。 ⑤ 傷病名の開始日、終了日又は転帰の記載がない。 ⑥ 主病の指定が適切に行われていない。 |
(2)傷病名の内容について、次の不適切な例が認められたので改めること。傷病名は診療録への必要記載事項であるので、正確に記載すること。 |
① 医学的な診断根拠がない傷病名 ア 骨粗鬆症 イ 骨髄異形成症候群 ウ 狭心症 エ 慢性胃炎急性増悪 ② 医学的に妥当とは考えられない傷病名 ア 悪性食道腫瘍 イ 悪性胃腫瘍 ウ 塞栓性梗塞 エ MRSA感染症 オ ビタミンC欠乏症 ③ 実際には「疑い」の傷病名であるにもかかわらず、確定傷病名として記載しているもの ア 閉塞性動脈硬化症 イ 糖尿病性網膜症 ウ 心不全 エ 2型糖尿病 オ ヘリコバクター・ピロリ胃炎 ④ 次の記載がない傷病名 ア 急性・慢性(例:腸炎、気管支炎、胃炎、心不全、結膜炎 等) イ 左右の別(例:肩関節周囲炎、腱鞘炎、結膜炎、中耳炎、変形性膝関節症 等) ウ 部位(例:腱鞘炎、陥入爪、乾燥性湿疹、扁平母斑、皮脂欠乏症 等) ⑤ 単なる状態や傷病名ではない事項を傷病名欄に記載している。傷病名以外で診療報酬明細書に記載する必要のある事項については、摘要欄に記載するか、別に症状詳記(病状説明)を作成し診療報酬明細書に添付すること。 (例:経口摂取困難、感冒、頭痛、悪心 等) |
(3)検査、投薬等の査定を防ぐ目的で付けられた医学的な診断根拠のない傷病名 (いわゆるレセプト病名)が認められた。レセプト病名を付けて保険請求することは、不適切なので改めること。診療報酬明細書の請求内容を説明する上で傷病名のみでは不十分と考えられる場合には、摘要欄に記載するか、別に症状詳記(病状説明)を作成し診療報酬明細書に添付すること。 (例:急性肺炎、MRSA感染症、敗血症) |
(4)傷病名を適切に整理していない例が認められた。傷病名には正しい転帰を付して、適宜整理すること。 |
傷病名の約半数ほどが不要と考えられるレセプト病名となっているケースも
最近では、レセプトチェッカーを導入して傷病名の漏れを防止している医療機関が増えています。そのためか医師が診療に伴って記載する傷病名以外にレセプトチェッカーによりつけられている傷病名が残り、その結果、過去の傷病名や疑い病名が数多く記載されたままとなっていることが見受けられます。
中には、傷病名の約半数ほどが不要と考えられるレセプト病名となっているケースもあります。レセプトチェッカーを導入することにより傷病名の漏れはなくなるものの診療記録との相違が推測され個別指導等の際には、問題となる恐れもあります。療養担当規則にもあるように傷病名の記載は医師の義務です。最終的な確認は、医師が行い診療に沿った傷病名を付けるルールづくりも重要です。
能見 将志(のうみ まさし)
診療情報管理士。中小規模の病院に18年間勤務(最終経歴は医事課長)。 診療報酬改定、病棟再編等を担当。診療情報管理室の立ち上げからデータ提出加算の指導まで行う。