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医療機関における定年制の今後の方向性 

 近時、定年制について再検討する(もしくは検討したい)医療機関のお客様が出てきた印象です。最大の理由は言うまでもなく、人材不足だと言えます。従前の取り扱いとして多かったのは、定年後の再雇用について、処遇を一定程度下げて(90%~50%)、賞与支給も無(もしくは大幅減額)という条件にて再雇用するパターンだったと思います。しかし、直近での印象としては、上記のような再雇用の条件の場合、再雇用時に契約せず転職するという事例が発生するようになっています(定年前の50代後半で退職するケースも発生してきた印象です)転職先を選ぶ理由として、(1)正規雇用と定年再雇用に条件面の差が殆ど無いケース、(2)定年年齢自体が60歳以上で、正規社員扱いとなるケース、(3)定年再雇用の給与条件が現在よりも良い、という3パターンのどれかだと思います 

 現在、そして今後も想定される人材不足によって、定年再雇用の職員であっても定着をして貰わないと困るという段階まできているため、定年年齢を改めて考えるかという点が少しずつ注目されている印象です。 

まず、現在の定年に関する法制度の内容は以下の通りです。 

1.60歳未満の定年禁止(法的義務) 

2.65歳までの雇用確保措置(法的義務)を取る必要。方策として、以下の①~③ 

 65歳までの定年引上げ 

 定年制の廃止 

 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度等) 

 なお、③に関しては、令和7年4月1日以降、継続雇用の経過措置が廃止され、会社は希望者全員を65歳まで雇用機会が確保しなければならなくなります。これは、あくまで継続雇用の対象を限定する特例措置が廃止されるのみで、2025年以降も希望者全員を継続雇用制度で再雇用する仕組みがあれば法的には問題なく、定年年齢を65歳以上にする法律になるわけではないのは注意です。 

参照:令和4年就労条件総合調査の概況(厚生労働省令和4年10月28日) 

上記は、一律定年制を定めている会社における定年年齢の統計になりますが、「医療、福祉」において、60歳の定年年齢は66.1%、65歳は25.6%、更に66歳以上も4.7%という数字になっています。全体的に比較しても令和4年調査では、60歳定年72.3%(←平成29年時調査79.3%)となり、平成29年調査から定年年齢を延ばす傾向にあるのは一目瞭然です。 

 

今後、定年年齢を延長するかどうかを検討するにあたっては、 

〇現在の職員の方々の年齢構成 

〇定年年齢を何歳まで延ばすのか 

〇定年年齢を延ばした際の退職金の仕組みをどうするのか 

〇定年年齢を延ばした際に、新しい定年年齢ではまだ定年に達していないことなる従前の定年再雇用者の処遇をどうするか 

〇60歳以降の昇給についてどう考えるのか 

〇定年年齢を延ばした際に、賃金カーブをどう考えていくのか 

といった様々な問題を検討していく必要があります。 

ただ、近時定年後再雇用においては、特に「業務内容・役割・責任が定年前と殆ど変わらない」場合に、定年後の処遇を引き下げた際、同一労働同一賃金の観点から紛争に至る可能性も高くなってきています。昨年名古屋自動車学校事件において、定年再雇用後に基本給および賞与が減額されたケースにおいて、最高裁判所は“労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期労働契約を締結している労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したもの”であるとしたうえで、『両者の間の労働条件の相違が基本給や賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得る』としました。(この事案では、基本給および賞与の性質や目的)「労使交渉の過程」を検討していない、として高裁に差し戻ししています) 

つまり、事案によっては基本給や賞与の支給について、同一労働同一賃金(労働契約法20条)に違反する不合理なものとされる可能性があることを明示した、という事になります。 

 

近時の人材不足、定年後再雇用の条件に関する同一労働同一賃金の流れを考えると、定年後の処遇とあわせて定年年齢をどうするか、ということについて医療機関も検討せざるを得ない時代になっていると思います。現在の職員の方々の年齢構成を分析して、自院の今後の将来像を考える上で定年年齢を再考してみませんか?


労務管理_石井氏

石井 洋(いしい ひろし)

M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。