今後以下の4点を中心に想定される制度改正、行政の方向性をご案内します。
① 週所定労働時間20時間未満の労働者について雇用保険の適用拡大の方向性
② 2歳未満育児時短就給付の創設へ
③ 技能実習制度から「育成就労」制度の創設へ
④ 労働基準監督署による定期監督等の実施結果について
① 厚生労働省は、11月22日、職業安定分科会雇用保険部会を開催し、雇用保険の適用拡大について、方向性を示しました。主な内容として、
(1)従来雇用保険の適用対象外とされていた、週所定労働時間20時間未満の労働者について、雇用保険の適用を拡大し、セーフティネットを広げる形で検討。
(2)適用拡大の範囲は、給付(つまり雇用保険に加入することで貰える金額)と負担のバランスのバランスや申請手続等も含む会社側の負担や被保険者が増加することによる、制度運営等のコストも踏まえる。
という2点で雇用保険の適用拡大の方向性を示しています。20時間未満ということは、月額の収入がそこまで高額にならないため、仮に失業手当等が支給されてもセーフティネットになるほどの受給金額にならない可能性もありますが、一方で令和6年10月から「会社の被保険者数51人以上の企業」が社会保険の適用拡大の対象(週20時間以上、月額8.8万円以上の方が社会保険加入)になることから、保険の適用範囲を広げようとする動きは進んでいくことになりそうです。
② 厚生労働省は、2025年度からの育児時短就業給付(仮称)の創設を目指して、制度設計の方向性案を示しました。11月13日に事務局が示した方向性案によると、2歳未満の子を養育する労働者を対象とし、支給の仕組みについては、時短勤務中の各月に支払われた賃金の一定額を支給する方法を提示しています。なお、13日の部会では、こども未来戦略方針で掲げられた育児休業給付の給付率引上げに関する制度設計案も示されています。子の出生後一定期間内に被保険者とその配偶者が共に14日以上の育児休業を取得した場合、28日間を限度として給付率を今の67%から8割程度に引上げるという案も示されています。
少子化対策の強化については、岸田総理大臣が若い世代の人口が急激に減少する2030年までが少子化の傾向を反転させるラストチャンスという表現をしているため、今後も育児介護休業法の改正含めて新しい制度が検討されることがありそうです。
③ 以前から見直しを行うものとされてきた技能実習制度について、見直しの検討を進めてきた政府の有識者会議が最終報告書を11月30日に発表されました。主な内容としては、以下となっています。
(参照:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書(概要))
また、これまで「やむを得ない事情がある場合」に限り認めていた技能実習における転籍(つまり転職)について、「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大・明確化し、手続を柔軟化、一定の条件をもとに本人の意向による転籍も認めるものとしています。
④東京労働局管内の全18労働基準監督署が令和4年に実施した定期監督の結果によると、監督件数は15,160事業場にのぼり、過去10年で最多となりました。東京労働局では、新型コロナウィルス感染症が落ち着いたとして、コロナ禍前を上回るペースで監督を実施した、としています。
15,160事業場のうち、労働基準法令違反が認められた事業数は11,050となっており、約73%が何らかの違反を指導されたことになります。
主な違反別事業場数としては、以下の通りです。
(参照:東京労働局労働基準部監督課 東京都内の労働基準監督署における令和4年の定期監督等の実施結果)
特に留意が必要なものとして、賃金不払、割増賃金、労働時間、休憩、休日(恐らく年次有給休暇の5日消化、有給休暇の管理簿について)といった内容があげられます。近時、私の担当先でも労働基準監督署による調査が急激に増えてきている感触があり、特に割増賃金がきちんと計算されているか、最低賃金を割っていないか、といった点については注視してきている印象があります。保健衛生業は、まだ全体の4%(607事業場)に過ぎず、まだ本格化してきていませんが、今後は定期的な調査が実施されていくことが予想されます。
石井 洋(いしい ひろし)
M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。