この記事は佐々木総研グループ長幸美先生のコラムの転載です。非常に多くの方に読まれている記事とのことで、ご許可を頂き転載いたしております。
今回の改定の中で、一番のトピックスは、「生活習慣病(脂質異常症、高血圧症、糖尿病)」が特定疾患療養管理料の算定対象疾病から除外されたことではないでしょうか?
このことにより、内科診療所は大きな打撃を受けることが予測されます。
今回は、令和6年2月14日の答申(短冊)の内容をもとにお話を進めていきたいと思います。
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そもそも「生活習慣病」とは?
「生活習慣病」とは、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が深く関与し、それらが病気の発症の要因となる疾患の総称です。日本人の死因の上位を占めるがんや心臓病、脳卒中も生活習慣病に含まれます。
そのベースにある疾患が、「脂質異常症」「高血圧症」「糖尿病」であり、三大生活習慣病ともいわれています。生活習慣を見直し、療養管理することにより、悪化を防ぎ健康寿命を延ばすことができると考えられています。
このため、特定疾患療養指導料の対象疾患にも定められ、療養管理を行うことに対し診療報酬上も評価されていました。しかし今回の改定で、三大生活習慣病(脂質異常症・高血圧症・糖尿病)は「特定疾患療養管理料」の対象疾患から除外されることになりました。これは内科のクリニックにとって、大きな影響が出るのではないかと思います。
実は、以前から保険請求上で「A001-3_生活習慣病管理料(①脂質異常症570点、②高血圧症620点、③糖尿病720点)」という医学管理料があります。評価(点数)も高く、検査や注射も包括されるため、算定しづらく、算定件数が少ない項目です。このため、以前より中医協の中でも議論されていました。
算定しづらい大きな要因は点数が高いため患者に対する負担金が高額になるためです。検査をするわけでもなく高い負担金を徴収するにはそれ相応の説明と納得が必要です。今までのように「月初めは料金が高くなります」では患者さんは納得しない金額です。
今回の改定では、この三大生活習慣病について、どのような療養管理が必要か検証され、その結果に基づき「効果的な療養管理を行うための評価の見直し」が議論され、見直しとなったものです。
令和6年度改定での「生活習慣病」にかかる変更点
今回の改定での変更点は、大きく分けて、次の3点になります。
特定疾患療養管理料の対象疾患の見直し
三大生活習慣病である「脂質異常症、高血圧症、糖尿病」については、特定疾患療養管理料の対象疾患から除外されました。これにより、これまで「脂質異常症、高血圧症、糖尿病」の療養指導について、特定疾患療養管理料で算定できていたものが、算定できなくなります。
中高年になると、この三大生活習慣病(脂質異常症、高血圧症、糖尿病)を主たる病名として、治療管理されている方は多く、内科診療所の収入の柱となっているとも言われています。このため、この改定は大きな打撃になることが予測されます。
特定疾患処方管理加算の見直し
特定疾患療養管理料の対象疾患から除外されることにより、「特定疾患処方管理加算」の対象疾患でもなくなるため、「特定疾患処方処方管理加算(66点)」の算定もできなくなります。
生活習慣病管理料の見直し
冒頭でお話ししましたが、生活習慣病(脂質異常症、高血圧症、糖尿病)の患者さまの療養管理については、もともと検査や注射等を包括された医学管理料「生活習慣病管理料」がありました。しかしながら点数が高く、さらに月1回の対面診療が必要なこと、療養計画書の作成及び患者への説明と同意が必要なこと、検査や注射が包括されるため安定期にない患者さまの治療管理には適しておらず算定し辛いものだったと思います。このため、「特定疾患療養管理料」で算定している医療機関が多かったのです。
今回の改定では、これまで「特定疾患療養管理料」で算定していた三大生活習慣病を主病とする患者さまの療養指導を、「生活習慣病管理料」に移行したい・・・という思惑があるように思います。療養計画書を書面で作成し説明することにより患者さまの意識付けにもなるというねらいもあると思います。
これまでの「生活習慣病管理料」を「生活習慣病管理料(Ⅰ)」として名称変更し、検査を包括から外した「生活習慣病管理料(Ⅱ)」を創設することにより、状態のコントロールが不安定な場合にも、それぞれの患者さまの状況に合わせて算定しやすいように見直しが行われたのだと思います。
見直しの主な項目は以下の5点です。
①それぞれの疾患の診療ガイドライン等を参考に疾患管理を行うことを要件とする
②少なくとも月1回以上の総合的な治療管理を行う要件を廃止する
③多職種連携を「望ましい要件」とする・・・歯科医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、等
④院内掲示要件・・・長期投与やリフィル処方箋への対応ができる旨を掲示する
(これは、ホームページへの記載も必要になります)
⑤包括要件の見直し・・・再診料の外来管理加算を併算定不可とする
生活習慣病管理料(Ⅱ)の創設
さて、ここで、新しく出来た「生活習慣病管理料(Ⅱ)」について、見ていきたいと思いますが、その前に、「生活習慣病管理料(Ⅰ)」について、見ておきたいと思います。
生活習慣病管理料(Ⅰ)の算定要件(見直しされたものを赤字で表示)
①対象医療機関・・・200床未満の病院及び診療所
②対象疾患・・・脂質異常症、高血圧症、糖尿病を主病とする患者
③医療計画の策定・・・診療ガイドラインを参考にする
⇒服薬、運動、休養、栄養、喫煙、及び飲酒等の生活習慣に関する総合的な管理
⇒説明と同意を得ること
⇒交付した療養計画書をカルテに添付
⇒計画書は概ね4月に1回交付する
⇒療養計画書の簡素化・・・令和7年度運用開始予定の電子カルテ情報共有サービスを活用する場合
血液検査項目の記載を不要とする。併せて、患者の求めに応じて電子カルテ情報共有
サービスの患者サマリーに、療養計画書の記載事項を入力した場合、療養計画書の作成
及び交付をしているものとみなす。
④治療計画の実施は多職種で行う(望ましい要件)・・・歯科医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、等
⑤掲示要件・・・長期投与及びリフィル処方箋の発行について
⑥月1回以上の診察要件・・・除外する
⑦歯科受診(月1回)の推奨(糖尿病)・・・前回改定で「眼科受診」が推奨されていたものに追加
⑧包括されるもの・・・外来管理加算、医学管理料(一部除外あり)、検査、注射、病理診断
⇒糖尿病の場合はHbA1c、高血圧症の場合は血圧の数値は必須
⇒医学管理の除外項目・・・糖尿病合併症管理料、がん性疼痛緩和指導管理料、
外来緩和ケア管理料、糖尿病透析予防指導管理料、腎臓病透析予防指導管理料
⑨生活習慣病管理料(Ⅰ)を算定した場合、6カ月は生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定できない
(新設)生活習慣病管理料(Ⅱ)333点の施設基準(算定要件)
生活習慣病管理料(Ⅰ)との一番の違いは、検査が包括外になり、別に併算定できるということでしょう。その分、基本点数が低く設定されています。それ以外の算定要件についてはほぼ同じ要件です。
ただし、生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定した場合、6カ月は生活習慣病管理料(Ⅰ)を算定できないとされています。一度算定してしまうと、算定変更はなかなか難しい状況が考えられます。
それと、情報通信機器を用いた場合は、生活習慣病管理料(Ⅱ)に代えて 290点(333点の87%)の算定になるという点もあります。
もちろん「情報通信機器を用いた診療」に関する施設基準の届出は必要になります。
そもそも、生活習慣病管理料は月1回検査をもとにして管理していくことが原則となっていましたが、今回、検査を外付けにすることにより、「オンライン診療による管理」も可能となったものでしょう。
生活習慣病管理料(Ⅰ)と(Ⅱ)の棲み分けは?
詳細は、告示及びその通知を見てみないとわからないのですが、現時点では、安定期に入っている状況の場合は生活習慣病管理料(Ⅰ)の算定ができるでしょうし、まだ管理がうまくいかない状況の場合は、生活習慣病管理料(Ⅱ)を算定し、外付けで検査を算定することにより、頻回な検査にも対応が可能になります。ただし双方に、その月の患者さんの状況により算定を変えていくことは難しい設計になっています。このため、患者さまの状況を見極めていく必要がありそうです。
今後の対応~検討する内容について~
さて、この変更に対し、先生方の反応やご質問等をあわせて考えてみたいと思います。
一部先生方からは、「主病」の見直し・・・つまり付替えでこれまで通りの算定ができる・・・というご意見もあろうかと思いますが、本当にそれでよいのでしょうか?
本来の「医学管理料」の目的等を考え合わせると、これまで「脂質異常症、高血圧症、糖尿病」を主病とされ、請求されていたものを、安易に他の病名を主病にするのは、不適切ではないか・・・と思われます。今後令和7年度に運用開始を予定されている「電子カルテ情報共有サービス」では、「生活習慣病管理料」の療養計画書等は患者さまをはじめ情報を共有することが前提となってくると思います。さらに、縦列点検が簡単に行われる現在のオンライン請求上は得策とは思えません。
今回の三大生活習慣病については、生活習慣病管理料(Ⅱ)の算定がポイントになってきます。
生活習慣病管理料の算定し辛かった点(検査が含まれた包括点数)については、検査を包括外とする「生活習慣病管理料(Ⅱ)」の創設により算定はしやすくなっていると思います。
まずは「診療ガイドライン」をご確認いただき、ガイドラインを参考にした疾病管理や多職種連携について、見直しを行うことが必要ではないかと思われます。
また、先に申し上げたように、一度「生活習慣病管理料(Ⅰ)」又は「生活習慣病管理料(Ⅱ)」を算定した場合、相互の算定変更がしにくい状況があります。つまり・・・
・生活習慣病管理料(Ⅰ)⇒(Ⅱ)へ
・生活習慣病管理料(Ⅱ)⇒(Ⅰ)へ
が、「算定した日の属する月から6か月算定できない」という縛りがあるからです。
この件については「通知」や「Q&A]によりもう少し詳しく出てくるのではないかと期待していますが、現時点では「6か月」の縛りがあるということが留意点になるのではないかと思われます。
従って、それぞれの特性をよく見極めて算定を検討する必要があるのではないかと思います。
頻回な診療と検査が必要な場合は生活習慣病(Ⅱ)の算定が有効になるでしょうし、コントロールが良い患者さまの場合は生活習慣病管理料(Ⅰ)の方が良いと思います。いずれにせよ、患者さまの状態を見極め、適切な治療管理を行い、重症化予防を行うことが求められているのではないでしょうか。
おわりに
今回の改定は、病床機能や在宅医療だけではなく、外来における医療提供についても「どのような医療提供(医学的管理)を行うか」ということが、強く問われているように思います。
3月初旬の「告示」及び「通知」の内容について、現在喧々諤々調整されている時期です。
細かなルールは「通知」や「Q&A」により示されてくると思います。
現時点でわかっていること・・・つまり「短冊」の中身をよく吟味し、クリニックや小規模医療機関(200床未満)については、「かかりつけ医機能」を実施すること、その延長線上に「生活習慣病」をはじめとする医学管理料(療養管理)があることを意識していく必要があるのではないかと思います。
地域の中での自院の役割や医療機能・・・つまり足元をしっかりと見極めていきましょう!
<参考資料>
■厚労省/令和6年度診療報酬改定について (令和6年2月25日確認)
⇒令和6年度診療報酬改定特設ページは(こちら)
⇒個別改定項目について、は(こちら)・・・362p以降