引き続き療養担当規則の第20条(診療の具体的方針)の内容につきまして、ご説明いたします。
第20条(診療の具体的方針)
第20条 医師である保険医の診療の具体的方針は、前12条の規定によるほか、次に掲げるところによるものとする。 1 診察 イ 診察は、特に患者の職業上及び環境上の特性等を顧慮して行う。 ロ 診察を行う場合は、患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認しなければならない。ただし、緊急やむを得ない場合については、この限りではない。 ハ 健康診断は、療養の給付の対象として行ってはならない。 ニ 往診は、診療上必要があると認められる場合に行う。 ホ 各種の検査は、診療上必要があると認められる場合に行う。 ヘ ホによるほか、各種の検査は、研究の目的をもって行ってはならない。ただし、治験に係る検査については、この限りでない。 |
先月は、「イ 診察は、特に患者の職業上及び環境上の特性等を顧慮して行う。」について、解説いたしましたが、今月は残りのロ~ヘについて解説いたします。
ロ~ヘの項目については、レセプト審査の基礎となる部分です。健康診断は、保険診療給付外であり、保険診療は、疾病の診療の際に適応することにより、根拠のない診療(検査、画像診断等)は健康診断と受け取られ、査定の対象になってしまいます。厚生労働省が発行する「保険診療の理解のために(令和2年度)」の中にも以下の記載があります。
(2)いわゆる「レセプト病名」について 実施された診療行為を保険請求する際に、審査支払機関での査定を逃れるため、実態 のない架空の傷病名( いわゆる「レセプト病名」)を用いてレセプトを作成することは、極めて不適切である。例えば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を投与した患者にプロトンポンプインヒビターを併用したので、医学的に胃潰瘍と診断していないにもかかわらず「胃潰瘍」と傷病名をつけておいた、等である。診断名を不実記載して保険請求したことになり、場合によっては、返還対象となるばかりか、不正請求と認定される可能性もある。 |
近年、厚生局による適時調査等において、病名のみで検査した根拠となる記録が診療録にない場合は、指導対象となるケースも多いようです。また、請求時においてもレセプト上の傷病名や請求項目のみでは診療内容に関する説明が不十分と思われる場合は、診療から保険請求に至った経緯について「症状詳記」を作成し、レセプトに添付する必要があります。ただし、この症状詳記においては、必要性をただ文章化するだけではなく、血圧、脈拍等を含む検査データ等の客観的・具体的事実を簡潔明瞭に記載することが望ましいとされています。
投薬においては、突合・縦覧点検にて重複投与の確認も容易になっています。療養担当規則では、本来、他医による処方内容等を確認することが求められていることから、重複投与も査定の対象となる可能性もあるため注意が必要です。
往診料は、下記の通則に記載の通り、患者の急性増悪等により患家の求めに応じて行うものとされているため、求めもなく行うことは認められません。例えば、たまたま近くの他の患者を診たので、ついでに診るという行為(グループホームや有料老人ホームで起こりがち)を往診料として請求することはできません。また、緊急ではなく、定期的・計画的な診療は「訪問診療料」として請求しますが、既述のような「ついで」というケースは、計画的でないため、訪問診療料の請求も認められません。
第20条(診療の具体的方針)
<往診料の通則> ※一部抜粋 ①往診料は、患者又は家族等患者の看護等に当たる者が、保険医療機関に対し電話等で直接往診を求め、当該保険医療機関の医師が往診の必要性を認めた場合に、可及的速やかに患家に赴き診療を行った場合に算定できるものであり、定期的ないし計画的に患家又は他の保険医療機関に赴いて診療を行った場合には算定できない。 ②特定の被保険者の求めに応ずるのではなく、保険診療を行う目的をもって定期又は不定期に事業所へ赴き、被保険者(患者)を診療する場合は、往診料として取り扱うことは認められない。 ③数事業所の衛生管理医をしている保険医が、衛生管理医として毎日又は定期的に事業所に赴いた(巡回)際、当該事業所において常態として診療を行う場合は、②と同様である。 ④定期的又は計画的に行われる対診の場合は往診料を算定できない。 |
能見 将志(のうみ まさし)
診療情報管理士。中小規模の病院に18年間勤務(最終経歴は医事課長)。 診療報酬改定、病棟再編等を担当。診療情報管理室の立ち上げからデータ提出加算の指導まで行う。