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HOSPITALITY 〜長先生の接遇レッスン〜 VOL.87「接遇・人材育成の行き詰まりを“管理者のせい”にしない視点④」

第2回 「結論を急ぎすぎていないだろうか」~ 指導と育成の境界線、どこまで許容できるのか

前回は、管理職が“正解”を一つに決めてしまったとき、現場で何が起きるのかを事例を通して見てきました。今回は、視点を変えた問いかけによって、スタッフの行動がどのように変わるのかを考えていきます。

◆視点を変えたとき、スタッフの行動はどう変わるのか

では、管理職の関わり方を少し変えてみたら、どうでしょうか。

例えば、こんな問いかけです。 「この患者さんにとって、いちばん大事にしたいことは何だと思う?」 「本人の不安や気持ちは、どこにありそうかな?」 「今日の関わりで、よかった点はどこだろう?」 正解を示すのではなく、理念や目的に立ち返る問いを共有する。 すると、同じ事例でも見え方が変わってきます。

Aさんの対応は、「夜眠るための環境づくり」という視点で捉え直せる Bさんの行動は、「医師と情報共有する役割」として意味を持つ Cさんの関わりは、「安心感を支えるケア」として位置づけられる

・・・こうなると、必然的に、スタッフに声をかける言葉が変わってきませんか?

どれが正解という話ではありません。 どこまで許容し、どこから修正するかを一緒に考えることが大切なのです。

もう一つの認知症の患者さんの事例も同様です。 物を持ってきてしまう行為だけを見ると、「盗ってはいけない」「止めさせるべき行動」 と、すぐに結論を出したくなります。 しかし、「なぜ持ってきてしまうのか」「安心できる場所がどこなのか」「何を“自分のもの”だと感じているのか」という視点で見ると、対応の幅は広がります。 この患者さんに関わる相談員さんとご家族を含めて話をしたところ、「昔からきれいなもの、可愛いものが大好きで、殺風景なお部屋を飾りたかった」「夜はひとりでさみしい」とそうなのです。そして、他の患者さんのタオルは、実はぐしゃぐしゃに丸めてあったので、洗濯してあげようと思ったらしく、本人は「盗ってきた」という意識はなかったようです。

管理職が「これはダメ」「それは違う」と、結論(正解)を先に示すのか、 「どう考えた?」「どこが難しかった?」と問いを投げかけるのかで、 スタッフの学び方は大きく変わっていきます。

このように考えると、指導と育成の違いは、正解を教えるか、考える余地を残すかの違いとも言えるかもしれません。 管理職が結論を急げば急ぐほど、現場は“正しさ待ち”になります。 一方で、理念や目的を共有し、「トライアンドエラーでやってみようよ」「うまくいかなかったらまた考えようよ」という許容範囲を示せたとき、スタッフは自分の頭で考え、動き始めます。

接遇やコミュニケーションは、失敗をゼロにすることで育つものではありません。 考え、迷い、振り返る中で、少しずつ積み上がっていくものです。 そして相手も感情がある「ひと」です。 それぞれの想いがある中で成功も失敗も含めて、少しずつ成長していくものだと思います。

次回は、 こうした「考える余地」が生まれた現場で、どのように「失敗してもいいじゃないか」 という空気が育ち、行動変容につながっていったのか、具体的な事例をもとに考えていきます。

 

長 幸美(ちょう ゆきみ)

(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。