前回は、制度や配慮が、必ずしも「その人の望み」と一致しない場合があることを、 事例を通して見てきました。 今回はその続きとして、スティグマの心理的背景と、 事務長として現場で見えてきたことをお伝えします。
■スティグマの背景にある心理
スティグマの背景には、「ラベリング」「内在化スティグマ」といった心理的な要因があります。
他者から貼られたレッテルが、いつの間にか自分自身の評価になってしまう。
そうなると、支援を受けること自体が苦しくなります。
だからこそ、医療につながりにくくなる――これが、スティグマの最も怖いところです。
■接遇としてできること~ 判断の主体は誰か ~
接遇というと、丁寧な言葉遣いや柔らかな態度に目が向きがちです。
けれど本当に大切なのは、「相手を尊重する」 という視点です。
そして判断することはその人そのものなのです。
「使わないと損ですよ」ではなく、
⇒「利用するかどうかは○○さんが決めることです」
「こちらで進めますね(いいですね!)」ではなく、
⇒「どんな選択をされたいか、聞かせてくださいね」
・・・という相手を尊重する態度や言葉そのものなのです。
制度の説明と同じくらい・・・いえそれ以上大事なことは、患者さんの人生の選択を尊重する姿勢ではないでしょうか?
その姿勢が、スティグマを断ち切る第一歩になります。
■事務長(管理者)という立場で見えてきたこと
事務長(管理者)になると、患者対応そのものより、職員への声かけや、現場の空気に目が向くようになります。
「あの対応、少し引っかかったな」
「悪くはないけれど、違和感がある」
以前は、「考えすぎかもしれない」と流してしまっていました。
現場が忙しかったということもあるかもしれません。
けれど考えてみてください。
その違和感こそが、現場を良くする入口ではないでしょうか?
■正解を教えない、という管理
職員に対して、「そんなつもりじゃなかったのよね」と声をかければ、場は一旦収まります。
しかし同時に、考える機会も、学ぶ機会も失われてしまいます。
事務長(管理職)に求められているのは、正解を示すことではなく、問いを残す(余白を残す)ことなのかもしれません。
「どういう思いで、その言葉を選んだのか」
「別の伝え方はあり得ただろうか」
責めずに、静かに問いかける。
それだけで、現場の空気は少し変わります。
■事務長からのメッセージ~ 考えてもいい空気をつくる ~
制度を理解し、医療の立場を意識すればするほど、私たちは「正しいこと」「正解」を選ぼうとします。
けれど、正しさだけでは守れない尊厳があります。
正しいことだから、それは良いことだとは限らないということがある、ということを知りましょう。
その一言は、
〇誰のための言葉だったのか。
〇相手に「選ぶ余地」を残せていただろうか。
〇相手の想いを知ろう・理解しようとしただろうか?
このように、立ち止まって考えることを、現場で許せるかどうか。
考えが変わってもいいし、迷ってもいい・・・。
そんな空気をつくることが、管理者の役割なのだと思います。
スティグマは、なくそうと意識しすぎると、かえって見えなくなります。
だからこそ、ふとした違和感を大切にしながら、立ち止まって考え続けること。それが、患者さんと職員、双方の尊厳を守る、大切な医療接遇になるのではないでしょうか。

長 幸美(ちょう ゆきみ)
(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。
