前回は、医療者の「正しさ」が、ときに患者さんの負担になってしまう可能性について考えました。
今回はその続きとして、制度利用に対する抵抗感と、実際の現場で起きた事例をご紹介します。
■制度と接遇の狭間で起きていること
「病気そのものより、“その病気をどう見られるか”の方がつらい」
患者さんから、そんな言葉を聞いたことはありませんか。
制度を使えば、経済的な負担は軽くなります。
治療も継続しやすくなります。
医療者として、その制度の活用を勧めることは正しい判断です。
それでも患者さんが、制度利用に強い抵抗を示すことがあります。
その背景にあるのは、
「弱い人と思われたくない」
「レッテルを貼られたくない」
という、スティグマへの恐れなのです。
■事例で考える
ここで、理解を深めるためにも、事例をもとに考えてみましょう!
これは私自身が病院時代に経験した事例です。
【事例①難病指定受けることは不利になる?】
「難病指定は、受けないといけませんか?」
・・・これは、とある晩秋のある日、神経難病の確定診断を受けた患者さんへ
「難病指定を受けるための制度の説明をしていた時のことです。
この患者さんは、翌年はれて大学を卒業し地元の企業に就職の内定をもらっていました。その言葉を聞いたときに私は、何を言うのだろう?と思いましたが・・・
話を聴いていて言葉を失ってしまいました。
それは私の想像もしたことがないことだったからです。
「指定難病を受けていることで、内定が取り消されるかもしれない」
制度は患者さんを守るものです。
仕事との両立をするための制度もいろいろとあります。
それでも、「働けない人と思われるのではないか」という恐れが、
制度利用を拒むほど強くなることがあるのです。
【事例②健常者として働きたい!】
「ボクは健常者枠で働きたいんです」
障がい者枠での採用を提案された男性が、まっすぐに私や事務長を見て、このように言いました。
面接を受けに来た男性は左足に障害を抱えていました。
日常生活には支障はありませんが、無理をすると膝に水がたまったり、足が曲がらないので、階段での移動は無理ができません。
障害を持って働くには、様々な配慮が必要になる場面が出てきます。
採用条件を話し合う中で、事務長からの「障害者枠」での採用を検討しようという提案に、障がい者としての配慮はいらないというのです。
これも私にはかなり衝撃を受けました。
しかしその理由を聞いてさらに言葉を失うことになったのです。
「障がいがある“かわいそうな人”として見られるのが、つらかった」
その方は、子どもが生まれ「障害者の子」として不憫がられるのが怖い・・・と。
「支援よりも、僕が普通に働く姿を見せたい」という思いの方がつよく、その人にとっては大切だったのです。
次回は、スティグマの背景にある心理と、 管理者として現場でできる関わり方についてお伝えします。

長 幸美(ちょう ゆきみ)
(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。
