こんにちは。M&Cパートナーコンサルティングの村上佳子です。
最終回は、医療機関がAI活用をどのように進めていくか、ロードマップとして整理します。
ここまで読んでくださった事務長さんの中には、「やっぱりAIは怖いですね」と感じた方もいるかもしれません。
たしかに、医療機関でAIを使うには注意が必要です。
患者情報、医療情報、診断・治療判断、薬機法、個人情報保護、サイバーセキュリティ。確認すべきことはたくさんあります。
でも、私は、医療機関がAIを怖がって終わらせてはいけないと思っています。
なぜなら、医療現場はすでに人手不足で、事務負担も増え続けているからです。
診療報酬改定への対応。
施設基準の届出と実績管理。
医療安全・感染対策・サイバーセキュリティ。
患者説明、地域連携、行政報告、院内研修。
これらをすべて人の手だけで抱え続けるのは、限界があります。
だからこそ、AIは安全に使いこなすべき道具です。
進め方としては、段階を分けるのがよいです。
第1段階は、患者情報を入力しない業務から始めることです。
院内掲示文、研修資料、議事録整理、マニュアルの言い換え、チェックリスト作成、FAQのたたき台などです。
ここは比較的リスクが低く、職員も効果を実感しやすい領域です。
第2段階は、承認済みAIサービスで、限定的な業務に使うことです。
法人契約や医療機関向けの管理機能があるサービスを使い、アカウント管理、ログ、再学習の有無、データ保存、権限管理を確認したうえで利用します。
この段階では、患者情報を扱う場合でも、業務範囲を限定してください。
たとえば、カルテ要約、紹介状下書き、退院サマリー補助などを検討する場合は、医師や医療職の確認体制、記録方法、責任の所在を明確にします。
第3段階は、診療支援AIや医療機器プログラムの導入検討です。
画像診断支援、重症化予測、治療支援などのAIを導入する場合は、薬機法上の位置づけ、承認・認証の有無、ベンダーの説明資料、院内運用、医師の最終判断との関係を確認します。
第4段階は、AI利用を院内の業務改善に組み込むことです。
AIを単発で使うのではなく、医事課、地域連携室、看護部、総務、人事、経理など、各部署の業務改善テーマと結びつけます。
たとえば、
「月1回の院内研修資料作成をAIで効率化する」
「診療報酬改定の院内周知文をAIでわかりやすくする」
「患者説明文を高齢者にも伝わる表現に直す」
「ヒヤリハット事例を研修用に整理する」
こうした小さな改善を積み上げることが大切です。
AI活用では、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」も参考になります。令和8年3月31日に第1.2版がとりまとめられており、AIを安全安心に活用するための考え方やチェックリスト等が公表されています。
医療機関では、AI活用を「DX担当者だけの話」にしてはいけません。
院長、事務長、医療安全管理者、個人情報保護担当、システム担当、各部署の責任者が一緒に考える必要があります。
最後に、事務長さんにお伝えしたいことがあります。
AIを使うかどうかは、もう一部の先進的な医療機関だけの話ではありません。
職員が個人で使い始める前に、組織としてルールを作る。
危ない使い方を禁止するだけでなく、安全な使い方を示す。
便利さとリスクの両方を見て、現場が迷わない環境を整える。
これが、これからの事務長さんの大事な役割です。
AIは、医療機関を脅かすものではありません。
正しく管理すれば、職員の負担を軽くし、患者さんへの説明をわかりやすくし、管理部門の仕事を前に進める力になります。
怖がって止めるのではなく、ルールを作って使いこなす。
医療機関のAI活用は、そこから始めていきましょう。

