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HOSPITALITY 〜5月病を個人の問題にしないために ~

新年度の慌ただしさがひと段落する5月。 
現場には少しずつ日常が戻る一方で、目に見えない疲れや心の揺らぎが生じやすい時期でもあります。 

こうした変化は個人の問題として捉えられがちですが、実は接遇の質とも深く関係しています。今回は「五月病」をきっかけに、接遇の土台となる“心の余裕”について考えてみたいと思います。 

 

■ 5月は「見えない疲れ」が出やすい時期 

新年度が始まって、約1か月。 

4月の緊張感が少し落ち着くこの時期は、ほっとする反面、 

心や体に疲れが出やすい時期でもあります。 

いわゆる「五月病」は、新人職員だけに見られるものではありません。 

異動した職員、新たな役割を担うことになった中堅職員、周囲に気を配り続けてきた管理職にも起こりうるものです。 

だからこそ、この時期の不調を「本人の気持ちの問題」と片づけず、 

職場全体で受け止める視点が大切になります。 

 

 小さな変化は誰にでも起こる 

たとえば、朝は出勤できていても、 

  • なんとなく気分が重い 
  • 集中しにくい 
  • 表情が硬くなる 
  • ちょっとしたことで気持ちが沈む 等々 

こうした「小さな変化」は、誰にでも起こりうるものです。 

 

 不調は接遇に表れる 

医療現場では、こうした不調が接遇の場面にも表れやすくなります。 

 

  • 受付でのあいさつがいつもより素っ気ない 
  • 患者さんへの説明が少し急ぎ足になる 
  • 電話対応の声に余裕がなくなる 

 

本人に悪気はなくても、患者さんは職員の表情や声の調子から多くのことを感じ取っています。 

「体調が悪いのだろうか」 

「怒っているのではないか」 

「歓迎されていないのではないか」 

そんな不安を抱かせてしまうこともあるのではないでしょうか。 
 

 接遇の土台は「心の余裕」 

この時期の接遇を考えるときには、形だけのマナーではなく、 

その人がどのような状態で働いているかに目を向けることが重要です。 

接遇は、気合いや根性だけで維持できるものではありません。 

心に余裕があるからこそ、相手の立場を思いやることができ、丁寧な対応につながります。 

つまり、心の余裕そのものが接遇の土台なのです。 

 

では、その「心の余裕」はどのようにすれば生まれるのでしょうか。 

特別な取り組みが必要というよりも、日々の現場の中で整えられることがいくつかあります。 

 

まず一つは、業務の偏りを見える化することです。 

特定の職員に負担が集中している状態では、どれだけ意識しても余裕は生まれにくくなります。この時期、新しい環境になり、ベテランも新人もあれもこれも・・・と、負担感が増加してきます。うまく伝えきれない焦りや先輩の期待にどう応えていくかモヤモヤした思いが出てきます。 

業務量や役割分担を定期的に見直すことが、結果として接遇の安定につながります。 

 

二つ目は、「短い一言」を意識的に増やすことです。 

「ありがとうございます」「助かりました」といった言葉は、発する側の気持ちも整えます。忙しい時ほどこうしたやり取りが減りがちですが、あえて増やすことで職場の空気に余裕が生まれます。私が勤務していた医療機関では、「挨拶月間」として、一言プラスする活動をしていました。「○○さん、おはよう」「○○さん、ありがとう、助かったわ」と、名前を呼ぶことをお勧めして実践してもらった診療所もあります。名前を呼ぶことにより、相手を見ること、そして視線が合うと自然に笑みがこぼれ、ふっと場が和む、と喜ばれていました。 

 

三つ目は、“完璧な接遇”を求めすぎないことです。 

体調や状況によって、対応の質に多少の波があるのは自然なことです。 

大切なのは常に100点を維持することではなく、チームとして大きく崩さないことです。現場に入り込んでしまうと焦りも出てきます。 

そんなときに、例えば事務長や奥様がロビー対応し、フォローができるといいですよね。そんなときは、受付さんも「ありがとうございます、助かります」と感謝を伝えると、待っている患者さんも、今日は忙しくてみんな私たちのために頑張ってくれているんだな・・・と気持ちよく待ってくださると思いますよ。 

 

そして最後に、困ったときに一人で抱え込まなくてよい環境をつくることです。 

「少し代わってもらえますか」「お願いできますか」と言える関係性があるだけで、心理的な負担は大きく軽減されます。 

 

こうした積み重ねが、個人の努力だけに頼らない「心の余裕」を生み、 

結果として安定した接遇につながっていきます。 

 

 個人任せにしないマネジメント 

しかし、その余裕を「自分で何とかするもの」としてしまうと、現場はさらに苦しくなります。五月病を個人の問題にしないためには、 

事務長や管理職が“小さな変化に気づく力”を持つことが欠かせません。 

たとえば、 

 

「最近どうですか」 

「何か負担が偏っていませんか」 

 

こうした声かけは、単なる確認ではなく 

「気にかけています」というメッセージにもなります。 

注意や指導の前に、この安心感が心を軽くすることも少なくありません。 

 

ある医療機関(病院)は、この5月の連休明けから約1か月間、職員が出てくる時間にスタッフの通用口に役職者が交代で立ち、出勤してくる職員に声をかける、という活動をされていました。当初は事務長と看護部長が立たれていたのですが、朝一のスタッフの様子を観察するためなのですが、寝起きの良しあしはあるかもしれませんが、朝が一番すっきりしているのではないか、その時に元気がない職員には日中それとなく声をかけ話をするようにしているとのことでした。 

 

 職場の言葉を整える 

もう一つ大切なのが、職場全体の共通認識です。 

「忙しい時ほど、言葉を丁寧にする」 

この意識を持つだけでも、患者さんへの対応だけでなく、職員同士の関係性も変わってきます。 

 

言葉を整える・・・というと「敬語のこと」と思われがちですが、正しい敬語・・・つまり尊敬語や謙譲語をちゃんと使ってください!ということではありません。 
心がこもらない形だけの敬語は、相手をイラつかせる原因にもなりますが、相手のことを考えた言葉は、完璧な尊敬語や謙譲語でなくても相手に心は伝わります。 

たっぷりの心を込めた、ねぎらいの一言や、柔らかな声かけが増えることで、 

職場の空気は自然とやわらかくなります。 

 

 接遇は「職員関係」が土台 

接遇は患者さんに向けたものと思われがちですが、その土台には日頃の職員同士の関係性があります。自分が大切に扱われていると感じられる職場では、自然と相手にもやさしくなれるものです。 

 

そこで、今回のテーマである「五月病対策」が生きてきます。 

この「五月病対策」はメンタルヘルスの問題として捉えがちですが、「気合」で乗り切れるものではありません。無意識に個人の努力に委ねてしまいがちですが、 

実はこれは接遇の質を守ることにもつながる重要な視点です。 

患者さんに安心していただける応対は、職員が安心して働ける環境から生まれます。 

 

■ 5月だからこそ見直したい視点 

疲れが出やすいこの時期だからこそ、「無理なく働けているか」「気持ちよく支え合えているか」・・・こうした点に目を向けてみたいものです。 

接遇を整えることは、患者さんのためであると同時に、そこで働く人たちを守ることにもつながります。その視点を、あらためて大切にしたいものです。 

 

長 幸美(ちょう ゆきみ)

(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。