前回は、受付カウンターでの何気ないやり取りの中に残った
「違和感」についてお伝えしました。
今回はその続きとして、配慮のつもりだった一言が、
どのようにスティグマにつながっていくのかを見ていきます。
■配慮のつもりだった、その一言
ある日のことです。
難病の治療を続けている患者さんに、医療費助成制度の説明をしている場面に立ち会いました。
「この制度を使わないと、治療費がかなりかかりますからね」
説明としては、間違っていません。
患者さんの費用負担を思えば、むしろ親切な言葉だったと思います。
けれど、患者さんは一瞬言葉を失い、
「少し考えさせてください」とだけお答えになりました。
その場では、それ以上のやり取りはありませんでしたが、患者さんは口数が少なくなってしまい・・・。
・・・その様子を見ながら、後からふと思ったのです。
――この言葉は、本当に「患者さんのため」だったのだろうか。
それとも、「制度を説明しなければならない私たち医療者のため」だったのではないだろうか・・・と。⚖️
■スティグマは、医療の中で静かに生まれる
スティグマ(stigma)とは、もともと「烙印」を意味する言葉です。
消えない印、負のレッテル。
そう・・・スティグマとは、社会が特定の人に押しつけてしまうイメージのことを指します。
医療現場に置き換えると、それは決して露骨な差別ではありません。
・病気があるから。
・年齢が高いから。
・生活が大変そうだから。
そうした情報をもとに、「こうしたほうがいいだろう」「この選択が最善だろう」と判断します。
そこに悪意はありません。
むしろ、専門性と経験に基づいた医療者としての“正しさ” があるからこそ、判断は早く、言葉は滑らかになります。
しかし――
医療の立場を意識すればするほど、スティグマは生まれやすくなる。
つまり、その判断が患者さんにとっては、「レッテル」を張られてしまったように感じられる・・・。
それが、この問題の難しさなのだと思います。
私たち医療職はつい忘れてしまいがちになりますが、忘れてはいけないことだと思います。
次回は、制度と接遇の狭間で患者さんが感じている葛藤と、
具体的な事例を通してスティグマの正体を掘り下げていきます。

長 幸美(ちょう ゆきみ)
(株)M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 医業経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
20数年の医療機関勤務の経験を活かし、「経営のよろず相談屋」として、医療・介護の専門職として、内部分析・コンサルティングに従事。
