医療・介護現場における人手不足と技術継承の課題が深刻化する中、新たなウェアラブル端末として「スマートグラス」への注目が高まっています。カメラやマイクを内蔵したメガネ型のデバイスで、装着者がハンズフリーのまま映像や音声を遠隔地とリアルタイムで共有できる点が最大の特長です。
具体的な活用事例として、TOPPANデジタルとセントケア・Replusが2024年に実施した訪問看護での実証実験があります。訪問先でスマートグラスを装着した看護師が、クリニックの医師と映像をリアルタイムで共有しながら処置を行うというものです。医師はスマートグラス越しの映像をもとにポインター機能で的確な指示を出し、看護師は両手を使いながらその指示に従って対応することができました。「自分の目の前に患者がいるような感覚で診察できた」という医師の声が示すように、視覚情報を共有することで電話では伝わりにくい患者の状態を正確に把握でき、看護師の心理的な不安の軽減にもつながったとされています。
医療・介護現場におけるスマートグラスの活用は他にも広がりを見せています。音声認識と連携することで、ケアの実施中に「体温36.5度」と発話するだけで記録システムへの入力が完了する機能や、医療行為をAIがリアルタイムで認識し注意喚起情報をレンズ内に表示して医療過誤を防ぐ取り組みなど、様々な実証実験が進んでいます。
現場への本格普及にはデバイスの操作性や通信環境の整備など課題も残りますが、ハンズフリーで専門家とつながれるという特性は、技術や経験の少ないスタッフが現場で孤立しないための仕組みとしても大きな可能性を秘めています。
訪問看護や夜間の施設ケアなど、一人で判断を迫られる場面が多い介護・医療現場においてこそ、スマートグラスが果たせる役割は大きいと言えます。こうした技術の動向を注視しながら、自施設での活用可能性を検討していくことが求められています。
原田 和将
一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。
