こんにちは。M&Cパートナーコンサルティング代表の村上佳子です。
今回は、令和8年度の立入検査で確認されるポイントのうち、医療安全についてお話しします。
医療安全というと、院内感染対策や転倒転落、誤薬防止、針刺し事故、インシデントレポートなどを思い浮かべる方が多いと思います。
もちろん、それらも大切です。
ただ、今回とくに意識したいのは、医療事故が起きたときに、医療機関としてどのように把握し、判断し、記録し、対応するのかという点です。
特に重要なのが、死亡・死産事例の把握と判断プロセスです。
患者さんが亡くなられた場合、そのすべてが医療事故というわけではありません。
しかし、管理者が把握した死亡・死産事例について、医療事故に該当する可能性があるのかどうかを、どのような流れで確認するのか。
誰が情報を集めるのか。
誰が判断に関与するのか。
判断した結果をどこに記録するのか。
遺族から「医療事故ではないのか」と申出があった場合、誰がどのように対応するのか。
ここが曖昧なままだと、いざというときに組織として対応できません。
医療事故対応で大切なのは、感情論ではなく、手順と記録です。
もちろん、患者さんやご家族への誠実な説明は大前提です。
ただし、それと同時に、医療機関として何を確認し、どのように判断し、どのような対応をしたのかを残しておかなければなりません。
「院長が判断したから大丈夫です」
「その場で説明しました」
「看護師長が対応しました」
これだけでは、あとから見たときに説明が難しくなります。
特に中小病院やクリニックでは、普段から院長先生や一部の職員に判断が集中しがちです。
だからこそ、簡単でもよいので、医療安全に関する報告ルートを整えておくことが必要です。
たとえば、重大なインシデントや死亡事例が発生した場合には、まず現場責任者から管理者へ報告する。
必要に応じて医療安全管理委員会や関係職種で検討する。
医療事故調査制度の対象となる可能性がある場合には、外部への相談も含めて検討する。
遺族対応の内容、説明者、説明日時、説明内容、質問内容を記録する。
このような基本の流れを決めておくことが大切です。
また、医療安全に関する研修も重要です。
研修は、単に年に1回実施すればよいというものではありません。
医療機関の規模や機能に応じて、職員が自院のルールを理解しているかが問われます。
特に、事故発生時の初動対応、報告のタイミング、記録の残し方、患者さん・ご家族への説明の基本姿勢は、職員に共有しておきたいところです。
そして、もう一つ忘れてはいけないのが、医薬品の管理です。
毒薬・劇薬については、医薬品医療機器等法に基づく適切な保管、管理が確認されます。
鍵の管理はどうなっているか。
保管場所は適切か。
在庫管理や使用記録は残っているか。
管理責任者は明確か。
このあたりは、日常業務の中で慣れてしまい、点検が形式的になりやすい部分です。
立入検査の前だけ慌てて確認するのではなく、定期的に棚卸や管理状況を確認しておくことが必要です。
医療安全は、どうしても「問題が起きたときの対応」として考えがちです。
でも、本当に大切なのは、問題が起きる前に、院内で同じ考え方を共有しておくことです。
事故が起きたとき、誰に報告するのか。
どのレベルから管理者に上げるのか。
患者さんやご家族への説明は誰が行うのか。
記録はどこに残すのか。
外部への報告や相談が必要な場合、誰が判断するのか。
このような基本事項を整理するだけでも、医療機関の安全管理体制は大きく変わります。
事務長さんには、医療安全は医療職だけの仕事だと思わないでいただきたいのです。
医療安全委員会の議事録、研修記録、インシデントレポートの管理、事故対応マニュアル、医薬品管理の記録などは、事務部門が関わる場面も多くあります。
医療職と事務職が一緒になって、説明できる体制を作ることが大切です。
今回のポイントは3つです。
1つ目は、死亡・死産事例や重大事故について、管理者が把握し、判断し、記録する流れを整えること。
2つ目は、医療事故やインシデント発生時の報告ルート、遺族対応、記録様式を確認すること。
3つ目は、医療安全は医療職だけでなく、事務長さんも管理体制として関与すべきテーマだということです。
次回は、サイバーセキュリティについてお話しします。
最近は、電子カルテやレセコンが止まると、診療そのものが止まってしまいます。
立入検査でも重要な確認項目になっていますので、実務的に見ていきましょう。

