厚生労働省は、開業医が多い地域での新規開業を許可制にする案を提起しました。都市部への医師の集中を防ぎ、地方の医師不足を解消することが大きな狙いですが、医師は都市部に集中しているというわけではなく、人口密度が高い場所に集中しているのが現状です。問題は、「地方に医師が少ない」ということではなく「人口に対しての医師の数が少ない問題が地方では顕著」ということになります。人口に対して医師の数が最も少ない県は埼玉県であり、次いで茨城県、新潟県が続きます。一方、医師数が最も多いのは徳島県、京都府、高知県となっており、首都圏への一極集中が主な問題とは言えません。医師不足の地域問題を解消するためには、新規開業許可制度だけでは不十分です。医師のキャリア形成プログラムに基づいた医師派遣制度の強化や、地方でのセカンドキャリア構築のサポートなど、複数の側面からのアプローチが必要です。2017年に厚生労働省が発表した「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」によると、年齢が上がるにつれて地方勤務を希望する医師の割合が増加する傾向が見られました。さらに、コロナ禍を経てこの割合はさらに増加しているとされています。また、地方での勤務は生涯年収が高くなる傾向があるというデータもあり、居住環境の魅力なども加えて地方勤務の良さを積極的に発信することも、医師の偏在問題を解決するための重要な方策となるでしょう。開業許可制に対しては「過度な規制は受け入れられない」とする反対意見も多く存在します。近年では、保険医療機関の管理者要件に一定期間の保険診療経験を義務付ける案なども検討されており、地域や診療科ごとの医師偏在対策が多方面から議論されています。今後も、これらの課題に対して多角的な視点からの検討が必要とされるでしょう。
原田 和将
一般社団法人 アジア地域社会研究所 所属
介護現場での管理者としての経験を活かした職員研修、コーチングを中心に活動。コーチングはITベンチャーなど多岐にわたる業態で展開。国立大学での「AIを活用した介護職員の行動分析」の実験管理も行っており、様々な情報を元にした多角的な支援を行う。