令和7年12月9日に社会保障審議会医療保険部会及び医療部会において決定された令和8年度診療報酬改定の基本方針は、日本の医療制度が直面する課題に対応し、地域医療体制の維持・向上を図ることを目的とした重要な方針です。以下では、そのポイントをわかりやすく整理します。
1.基本認識
令和8年度の診療報酬改定では、次のような社会・経済の変化を踏まえています。
日本経済が新たなステージに移行しつつある中での物価・賃金の上昇や、人口構造の変化(少子高齢化と人口減少)の中での人材確保、現役世代の負担の抑制努力の必要性に対応する必要があります。
2040年頃を見据えた、全ての地域・世代の患者が適切に医療を受けることが可能かつ、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制の構築が求められています。
また、医療の高度化や医療DX、イノベーションの推進等による、安心・安全で質の高い医療の実現、さらには社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和を図ることが重要とされています。
これらを踏まえ、診療報酬は医療機関の安定経営や医療従事者の働き方の改善につながるよう設定されます。
2.改定の基本的視点と具体的方向性
基本方針では、改定に当たっての4つの視点が示されています。
(1)物価や賃金、人手不足等の医療機関等を取りまく環境の変化への対応【重点課題】
【具体的方向性】
- 医療機関等が直面する人件費や、医療材料費、食材料費、光熱水費及び委託費等といった物件費の高騰を踏まえた対応
- 賃上げや業務効率化・負担軽減等の業務改善による医療従事者の人材確保に向けた取組
- 医療従事者の処遇改善
- 業務の効率化に資するICT、AI、IoT等の利活用の推進
- タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進
- 医師の働き方改革の推進/診療科偏在対策
- 診療報酬上求める基準の柔軟化 等
こうした取組により、医療従事者が安心して働ける環境を整え、質の高い医療提供を支えます。
(2)2040年頃を見据えた医療機関の機能の分化・連携と地域における医療の確保、地域包括ケアシステムの推進
【具体的方向性】
- 患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価
- 「治し、支える医療」の実現
- 在宅療養患者や介護保険施設等入所者の後方支援機能(緊急入院等)を担う医療機関の評価
- 円滑な入退院の実現
- リハビリテーション・栄養管理・口腔管理等の高齢者の生活を支えるケアの推進
- かかりつけ医機能、かかりつけ歯科医機能、かかりつけ薬剤師機能の評価
- 外来医療の機能分化と連携
- 質の高い在宅医療・訪問看護の確保
- 人口・医療資源の少ない地域への支援
- 医療従事者確保の制約が増す中で必要な医療機能を確保するための取組
- 医師の地域偏在対策の推進 等
地域完結型医療を目指し、住民が暮らす場所に応じた適切な医療を受けられる体制をつくります。
(3)安心・安全で質の高い医療の推進
【具体的方向性】
- 患者にとって安心・安全に医療を受けられるための体制の評価
- アウトカムにも着目した評価の推進
- 医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価
- 質の高いリハビリテーションの推進
- 重点的な対応が求められる分野(救急、小児・周産期等)への適切な評価
- 感染症対策や薬剤耐性対策の推進
- 口腔疾患の重症化予防等の生活の質に配慮した歯科医療の推進、口腔機能発達不全及び口腔機能低下への対応の充実、歯科治療のデジタル化の推進
- 地域の医薬品供給拠点としての薬局に求められる機能に応じた適切な評価、薬局・薬剤師業務の対人業務の充実化
- イノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の確保 等
患者にとって安心できる医療環境づくりが重視されています。
(4)効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
【具体的方向性】
- 後発医薬品・バイオ後続品の使用促進
- OTC類似薬を含む薬剤自己負担の在り方の見直し
- 費用対効果評価制度の活用
- 市場実勢価格を踏まえた適正な評価
- 電子処方箋の活用や医師・病院薬剤師と薬局薬剤師の協働の取組による医薬品の適正使用等の推進
- 外来医療の機能分化と連携(再掲)
- 医療DXやICT連携を活用する医療機関・薬局の体制の評価(再掲) 等
3.今後の課題
診療報酬制度の安定性・持続可能性を高めるための課題として、以下が示されています。
- 診療報酬制度のみならず、医療法、医療保険各法等の制度的枠組みや予算措置等により総合的に政策を講じることが求められる
- 持続的な物価高騰・賃金上昇局面において、報酬措置においても適時適切に対応できるよう検討する必要がある
- 患者自身が納得して医療を受けられるよう、分かりやすい医療提供体制を実現し、国民の医療保険制度に対する納得感を高めることが重要
- 医療DXへの投資は医療機関等のコストの増加だけではなく業務負担の軽減や医療の質の向上につながるものであり、その推進が必要
医療制度全体を俯瞰し、社会保障の持続可能性を高めていくことが求められています。
まとめ
令和8年度の診療報酬改定基本方針は、医療制度が抱える人口減少・人材不足・環境変化という大きな課題に対応するための指針です。医療現場の処遇改善や地域包括ケアの推進、医療の質と安全性の向上など、多くの視点から改革の方向性が示されています。
今後の改定内容詳細や実施にあたっての具体策は、厚生労働省から順次発表されていく予定です。
