診療行為を保険診療として請求を行なうに当たっては、次のルールを守ることが重要となります。
1. 保険医が
2. 保険医療機関において
3. 健康保険法、医師法、医療法、薬事法等の各種関係法令の規定を遵守し、
4. 『療養担当規則』の規定を遵守し、
5. 医学的に妥当適切な診療を行ない、
6. 診療報酬点数表に定められたとおりに請求を行なっていること。
そこで、これまでは『医師法』について触れてきましたが、今回からは『療養担当規則』についてご説明いたします。
療養の給付の担当の範囲
第1条
保険医療機関が担当する療養の給付並びに被保険者及び被保険者であった者並びにこれらの者の被扶養者の療養(以下単に「療養の給付」という)の範囲は、次のとおりとする。
1 診察
2 薬剤又は治療材料の支給
3 処置、手術その他の治療
4 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
5 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
健康保険の被保険者が業務以外の事由により病気やけがをしたときは、健康保険で治療を受けることができます。これを療養の給付といいます。つまり、保険診療にて治療が可能な範囲は限られており、次のような場合には、療養の給付(保険による診療)は受けられないため、患者が自己負担することになります。
したがって、下記の行為(特に1、2)を保険請求した場合、あるいは下記の行為に該当すると審査側が判断した場合は査定の対象となります。
1. 単なる疲労や倦怠感による栄養剤投与
2. 健康診断、集団検診
3. 予防接種・予防注射(例外あり)
4. 歯列矯正
5. 近視の手術
6. 正常な妊娠・出産
7. 経済上の理由による人工妊娠中絶
8. 日常生活に支障のないわきが、しみなどの治療
9. 美容整形
10. 仕事上のケガや病気で労働災害に該当する場合(→労災保険の対象となる)
療養の給付の担当方針
第2条
保険医療機関は、懇切丁寧に療養の給付を担当しなければならない。
2 保険医療機関が担当する療養の給付は、被保険者及び被保険者であった者並びにこれらの者の被扶養者である患者(以下単に「患者」という)の療養上妥当適切なものでなければならない。
療養の給付にあたっては、患者及び家族に、療養上必要な事項について『懇切丁寧』に説明が行なわれていることが求められています。辞書によると『懇切丁寧』とは、「細かいところまで気を配り、注意深く心をこめて接すること」とされています。
つまり、説明したかどうかだけではなく相手の反応を見ながら理解できるように努めたかどうかが、実際は求められています。相手の反応を確認する方法の一つは、「相手の目を見て話すこと=アイコンタクト」が挙げられます。話している相手が目を合わせないと、「本当にこの人は話を聞いてくれているのか?」、「真剣に考え、受けとめてくれているのか?」を疑います。
現在、電子カルテ化が進み、患者ではなく端末画面を見て話しているケースも多々見受けられます。画面入力を行なう最中でも、患者とのアイコンタクトを心がけていくことが重要と考えます。
診療に関する照会
第2条の2
保険医療機関は、その担当した療養の給付に係る患者の疾病又は負傷に関し、他の保険医療機関から照会があった場合には、これに適切に対応しなければならない。
この項目では、他の医療機関より、患者の診療内容の照会依頼があった場合に、ただ対応することが求められているのではなく、「適切に対応」することが求められています。
例えば、電話にて○○診療所と名乗って照会があっても、もしかすると虚偽を名乗って問い合わせを行なっている場合もあります。そこで医療機関側の対応としては、たとえ入院の有無の確認であっても、そこですぐに情報を伝えるのではなく、相手先の医療機関名、電話番号、担当者名を確認し、一旦電話を切り、その電話番号に間違いがないかどうかを電話帳等で確認し、折り返し電話するような対応が必要です。
また、患者の情報に関する問い合わせ先が、患者の職場の上司、警察、学校であっても直ぐに回答することは、個人情報保護法上認められません。問合せの相手及び内容を患者に確認し、情報を伝えて良いかどうかの回答が必要です。なお、情報を伝える際には、医療機関ではなく、患者若しくは家族に依頼することをおすすめいたします。
適正な手続の確保
第2条の3
保険医療機関は、その担当する療養の給付に関し、厚生労働大臣又は地方厚生局長若しくは地方厚生支局長に対する申請、届出等に係る手続及び療養の給付に関する費用の請求に係る手続を適正に行なわなければならない。
診療報酬の請求を行なうに当たっては、施設基準が設定されているものがあります。例えば、一般病棟入院基本料においては、重症度・看護必要度、平均在院日数、看護配置数、正看比率、月平均の看護職員の夜勤時間数などの基準があります。基準によって計算期間や一時的な変動であれば不問とするなど、解釈が異なりますが、設定されている基準を満たすことができなければ、届出変更が必要です。届出変更を行なわず請求を継続していた場合は、「不正請求」と判断される場合もありますので注意が必要です。
能見 将志(のうみ まさし)
診療情報管理士。中小規模の病院に18年間勤務(最終経歴は医事課長)。 診療報酬改定、病棟再編等を担当。診療情報管理室の立ち上げからデータ提出加算の指導まで行う。