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令和6年度賃上げ率の方向性について

今回は少し情報が出始めた会社経営を取り巻く人件費について大きなテーマとなるであろう、令和6年度の賃上げの方向性について、過去の実績値を踏まえて解説します。 

まず、令和4年度の実績を「令和4年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」(令和4年11月22日発表)から整理します。

令和4年度の実績は1人平均賃金の改定率(%)は、1.9%となっており、改定額(円)でいうと、5,534円という結果になっています。令和4年中における賃金改定の実施状況としては、「1人平均賃金を引き上げ・引き上げる」企業の割合は、85.7%(令和3年80.7%)となっています。(令和5年度の同実態調査報告は未発表) 

なお、医療、福祉業の集計を見ると、令和4年度の1人平均賃金の改定率は2.8%、改定額では、6,403円という結果になっています。 

次に一般職のベア(ベースアップ)についてみると、令和4年度の実績値は29.9%の実施となっています。(令和3年度は17.7%) 

次に、別資料ですが、「民間給与の実態」(令和5年8月人事院発表)資料を確認します。 

そうすると、令和4年と比べて明らかなベースアップの増加傾向が見てとれます。実際に、令和5年の春闘の最終集計結果によると、ベースアップと定期昇給を合わせた賃上げ率は、平均で3.58%と前年比からかなりの上昇になっています。 

 

 では、これまでの令和4年・5年の統計資料を踏まえた上で、令和6年の賃上げはどうなるでしょうか。来年にかけての企業を取り巻く環境の変化を見ると、急速な円安の進行、物価上昇の傾向は続いており、人材不足傾向が昨年に引き続いている状況を鑑みると、令和6年も今年と同様の賃上げ傾向になることはまず間違いないかと考えます。民間のエコノミストの予測を見ても、令和6年の春闘賃上げ率の予測は、3.7%(第一生命経済研究所)、平均3%程度と予測(三井住友DSアセットマネジメント)、今年を下回る3.2%と予測(みずほリサーチ&テクノロジーズ)といった高い数字が並んでいます。地場の医療機関の状況を見ると、上記の数字ほどの定昇率は感じていないところが私の正直な印象なのですが、令和6年を予測すると、ある程度の賃上げはせざるを得ない状況ではないか、というところです。厚生労働省の分析によると、2022年介護就労者が前年より1.6%減少した、という発表があり、他業界での賃上げにより介護業界から転職する動きが既に始まっていることが明らかになっています。そのような状況からすると、令和6年の賃上げについては、出来ないところから人材がこぼれていく、我慢比べのような賃上げになるのではないか、と考えています。令和6年度の定昇について、通常通りの1%~1.5%前後の定昇しかしないとなると、他業種もしくは他医療機関で先行投資として賃金を変える動きを取るところが出てきた場合に、ポロポロとこぼれていくように人が抜けていく、という事が予想できます。若年層採用のため、初任給水準の大幅な見直しを検討する企業も増えていることから、世の中の動き、近隣の医療機関の求人水準の設定含め、情報収集につとめて、早めに手を打つことが求められる時代になったと感じます。基本給の水準、各手当を今後そのまま維持するべきなのか、賞与の支払い方をどうするべきなのか、基本給に退職金が結びついている場合はそのままの仕組みで良いのか・・・あらゆる処遇にまつわるものを再検討するくらいの準備が必要です。 

労務管理_石井氏

石井 洋(いしい ひろし)

M&Cパートナーコンサルティング パートナー
(株)佐々木総研 人事コンサルティング部 部長
長崎出身。九州大学卒業。社会保険労務士。フットワークが軽く、かゆいところに手の届くコンサルティングで、主に若い経営者からの人気を誇る。就業規則や人事考課制度の見直しから、スタッフミーティングの開催など、幅広いコンサルティングを行う。セミナー講師の経験も豊富で、その場のニーズに合わせた柔軟なセミナーを得意。趣味はバドミントン・フットサル・旅行。